これは、AKBの伝統を自らぶち壊すことにほかならない。念のために言うと、伝統とはなにも過去のことだけを意味するのではない。過去・現在・未来と連なる「時間のパースペクティブ」の中で存在するものだ。AKBで言えば、AKB劇場を立ち上げたばかりの客が入らない時代から頑張ってきた初期のメンバー、指原莉乃を頂点とする現在のメンバー、そしてこれからAKBのメンバーになって活躍したいと夢を見ている女の子たち。それら、過去・現在・未来のメンバーたちの汗と涙と努力の堆積物が伝統であり、そこに夢を重ねるファンたちの思いの結晶なのだ。

 そのことが分からなければ、タレントの有吉弘行のように「まあ、運動部でもなんでもそうだけど、OBとかOGが学校来て文句言うのが一番ウザったいよね」という発言も出てくる。これなど、現在が過去・現在・未来というパースペクティブの中で成り立っていることがまったく理解できていない人間の発言だ。つまり、自分のことしか考えていない。

 なぜならテレビのお笑い番組も、かつてはゴールデンタイムにバラエティ番組は放送できなかった。「お笑いは汚いから」というのがその理由だ。それを萩本欽一が「これはバラエティじゃない。ホームドラマだ」と強弁し、プロデューサーを騙し、スポンサーも騙し、必死に変えていった結果、ゴールデンタイムでバラエティ番組やお笑い番組が放送できるようになった。その恩恵を受けて、有吉もいまの人気と高収入を得ているわけであるが、彼の「OBウザい」発言は、「彼はお笑い界の開拓者たちに対するリスペクトもないのだろうな」と思わせるものだった。

 僕はなにも、なんでもかんでもOBやOGに逆らうなと言うつもりはない。しかし、OBやOGをウザいと言っていいのは、間違った伝統をぶち壊して新しい地平を切り開くときだけだ。前述の例で言えば、「お笑いは汚いからゴールデンでは放送できない」という伝統をぶち壊して、ゴールデンタイムでも放送できるお笑い番組、バラエティ番組を開拓した萩本欽一さんは正しい。

 しかし、須藤凜々花の結婚宣言には、新しいアイドル文化の地平を切り開くという意味合いなど、なにもない。言っていることは「好きな人ができたので結婚します」ということだけだ。記者会見でも「恋愛禁止と言われて我慢できる恋愛は恋愛じゃない」と発言しているが、これも自分のことを言っているだけ。アイドル文化の伝統、アイドル文化の新しい地平というパースペクティブでは、まったくなにも語っていない。だから僕は、須藤凜々花の結婚宣言を容認できない。

 そろそろ僕らは、自分のことしか考えていない人間の言動を賞賛したり容認したりするのはやめにしたほうがいい。そうでなければ、誰かが大切にしていること、愛しているものを傷つけてしまうし、そのことが社会を壊してしまうこともある。時間的なパースペクティブでものごとを考えることは、とくに若い人にとっては感覚的に難しいかもしれない。でもだからこそ「誰かが命と引き替えに伝えようとしたこと」には真摯に向き合ってほしいと思う。

 小林麻央さんが直接的に守りたかったことは、市川宗家であり、歌舞伎の伝統だったかもしれないが、本当に伝えていたことは「過去・現在・未来のパースペクティブの中で人は生きているし、その中で生きてこそ人生には意味がある」ということだと僕は解釈している。

 彼女が伝えたかったこと、みなさんには届いていますか?

(ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表 竹井善昭)