教師による生徒への暴力、議員による秘書への暴言…不適切どころか、傷害事件と目されるトンデモ事態が後を絶たない。そこには、学生だろうが秘書だろうが、相手を人として尊重する意識が全く欠落していると言わざるを得ない。(組織・人事・人材開発コンサルタント/トレーナー 山口 博)
相手をどつき回せば
成長すると本気で考えているのか?
ここのところ、暴力行為が相次いで問題になっている。武蔵越生高校サッカー部でコーチによる生徒への暴力動画がツイッター投稿され、豊田真由子代議士の秘書への暴言・暴行も告発された(記事はこちら)。
いずれもメディアで大きく報道されている。動画や音声を見聞きした人のほとんどが、強い不快感を覚えたに違いない。見るに堪えない、聞くに堪えない出来事だ。
これらは単なるハラスメントを超えた、言葉や行動による暴力行為であり、傷害事件である。コーチに対して抵抗できない生徒、議員に従う役割の秘書という相手の弱い立場を利用し、上に立つ者の地位や権限を濫用した暴力だ。被害者生徒は、ほかの生徒たちが注視する中、抵抗することも躊躇され、逃げようにも逃げられぬ心境だったのではないか。秘書の場合は、ましてや運転中である。反撃できようもない。
武蔵越生高校のコーチは、「生徒の態度がよくなかったので行き過ぎた指導をしてしまった」と説明したという。生徒にビンタを食らわせれば、態度がよくなるのか。みぞおちにパンチを繰り出せば、やる気が出るのか。後ずさりする生徒を追い込んでいき、繰り返しどつき回せば、パフォーマンスが上がるのか。
秘書の容姿をあげつらい、家族まで引き合いに出し、まるで脅迫するが如き発言と、とどまることを知らぬ暴言の連続が、秘書業務の円滑な遂行を促すか。ひいては議員活動を促進し、国益に資するのか。
「時には体罰(という名の暴力)が、生徒のやる気を高める場合がある」、「暴言もカンフル剤としては有効なこともある」と言う人もいるし、「自分は暴力やしごきに耐えて、それを乗り越えたからこそ大成した」と思っている先人もいる。しかし、私は、この考え方に賛成できない。20年来、人材開発に携わり、ビジネスパーソンや学生の能力開発に取り組んできた経験をふまえれば、暴力や暴言は、パフォーマンスの向上に全く役立たないと言い切れる。