『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』を上梓した、アナリストの高辻成彦さんに聞く、ビジネスリサーチの基本とは? 連載4回目の今日は、市場規模の調べ方を紹介します。
市場規模の把握の仕方
今日は、市場規模のつかみ方について取り上げます。
業界を調べる際に、特に知りたい情報として、市場規模があります。
前回は、経済統計のかんたんな見方について取り上げましたが、市場規模は、以下から情報を得ることができます。
1)国の経済統計
2)業界団体の業界統計
3)市場調査会社の調査報告書
4)事業会社のIRデータ
5)自ら推計するケース
国の経済統計
国の経済統計は、大きく分けて、一次統計と二次統計とがあります。
一次統計は、統計を作成することを目的として行われる調査から得られる統計です。
これに対して、二次統計は、一次統計などから加工した統計で、加工統計とも呼ばれます。たとえば、GDPなどです。
市場規模を調べる際には、一次統計、なかでも業種の網羅性という意味で、経済産業省の経済統計と接することが多いと思います。
経済産業省は、所管が、鉱工業、商業、サービス業と広いからです。
鉱工業であれば生産動態統計調査、商業であれば商業動態統計調査、サービス業であれば特定サービス産業動態統計調査があります。
これらは、月次で統計を作成・公表していますので、より直近の市場動向を把握できます。
業界団体の経済統計
次に見ておきたいのが、業界団体の経済統計です。
国の経済統計で、すべての業界の市場規模が得られるわけではありません。
そもそも、もっとも整備されている経済産業省の生産動態統計にしても、月次情報の公表時期は、経過月から2ヶ月程度遅れます。
これを補うのが、業界団体が作成している業界統計です。
多くの業界は、業界の課題や情報を共有するため、業界団体を形成しています。
日本自動車工業会、日本工作機械工業会、日本百貨店協会、日本フランチャイズチェーン協会などが、その例です。
これらの業界団体では、業界統計を作成し、公表しています。
業界統計は、規模や情報開示方針によって、入手の難易度は異なりますが、大規模な業界団体であれば、たいてい月次データを作成・公表しており、政府統計よりも情報開示時期が早い物もあります。
したがって、調べたい業界の市場規模や、直近の需要動向を得る上で、重要な役割を担うのです。
市場調査会社の調査報告書
国の統計や業界団体の統計で市場規模が得られない場合には、市場調査会社の調査報告書を入手しましょう。
業界の網羅性が高いのは、矢野経済研究所や富士経済の調査報告書です。
しかし、業界によっては、毎年調査を行っているものもあれば、そうでないものもあります。
更新頻度が低い場合、直近の動向とは乖離しているリスクに注意が必要でしょう。
また、特定の業界については、IDCやGartnerなど、四半期おきに推計・公表している調査会社もあります。
事業会社のIRデータ
事業会社のIR情報から、市場規模を入手できるケースもあります。
たとえば、建設機械業界の場合、日本建設機械工業会の統計から、国内の市場規模を把握することが可能です。しかし、同業界はすでに主要プレイヤーがグローバル化していることから、世界の地域別市場動向を把握する必要があります。
そこで役立つのが、コマツや日立建機、タダノといった主要プレイヤーが、各々、決算説明資料で開示している世界の地域別需要動向の推計です。
これらのプレイヤーのように詳細な市場規模までは把握していなくても、業界の主要プレイヤーは、おおよその市場規模をつかんでいることもあります。問い合わせしてみるのも手でしょう。
自ら推計するケース
国の統計や業界団体の業界統計、民間市場調査会社、事業会社のIRのデータなどでも、業界の市場規模が得られない場合もあります。
比較的、市場規模が小さな業界の場合に多いです。
そのような時には、推計することにより市場規模をつかむことができることがあります。
ここでは、部品市場の場合を考えてみましょう。
部品市場の場合、経済統計では、部品そのものの市場規模が捉えられないことが、よくあります。
そういうときは、完成品1台当たりに占める搭載個数を求めます。
たとえば、自動車1台につき2個搭載される部品の場合、自動車の市場規模の台数がわかれば、それを2倍すれば市場規模の個数がわかります。
また、1台当たりに占める平均単価がわかれば、市場規模の金額もわかる、といった具合です。
さて、今日は、市場規模を調べるために参照すべき統計について、かんたんに解説しました。
ご自身の調べたい業界について、どんな統計が使えるか、拙著『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』なども参考に、実際に手を動かしてみていただければと思います。