国際特許手続きに支障なしでも<br />“中国版新幹線”輸出の前途多難中国は「CRH」を“純国産車両”として、海外に向けて売り込みをかける予定だった
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 中国浙江省で起きた高速鉄道事故は、中国政府に鉄道輸出戦略の大幅修正を迫ることになりそうだ。

 6月には、中国の国営車両メーカーの南車集団が、上海~北京を結ぶ中国版新幹線「CRH380A」の技術特許を米国、欧州など5ヵ国・地域において申請していることが明らかになったばかり。2004年以降に、川崎重工業が南車へ東北新幹線はやての技術を導入した車両を納入した経緯があり、中国が「独自技術で改良した」と主張する特許が、日本の新幹線技術を脅かす、と懸念されていた。米国ではカリフォルニアなど11の高速鉄道計画が進行中で、中国には特許取得で海外受注に弾みをつける狙いがあったのだ。

 事故車両のうち、追突したほうははやて改良版の「CRH2型」、されたほうはボンバルディアと合弁生産された「CRH1型」。いずれも南車製だったことから、「事故原因が車両設計にあるならば、特許審査で落とされる」(車両メーカー幹部)との声もある。

 だが、二つの視点から審査過程に支障はないようだ。まず、申請中の車両と事故車両では型が異なる。次に、輸送機器の特許とは安全運行が前提で出願されるので、「審査項目に安全性が含まれているわけではない。タイムマシンのように現実性に乏しく安全と想定できない場合は却下されるが、今回は当てはまらない」(特許庁国際課)。

 もっとも、安全運行という最低限のルールを遵守しなかったのだから、中国による輸出戦略が最初からつまずいたことは間違いない。「特許取得は競合よりも優位に立つ、一つの要素にすぎない」(車両メーカー幹部)し、「安全性と効率性を徹底的に追求することが高速鉄道の競争優位性」(経済産業省幹部)だからである。

 昨年末、米カリフォルニア計画の受注を視野に、南車と米ゼネラル・エレクトリックが提携しており、受注困難と双方が判断すれば特許の出願を取り下げるシナリオも考えうる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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