私のおすすめは「説明はざっくり→しっかり」というやり方です。

 何か人に説明するときは、まずざっくりとします(多くの場合、結論に当たる部分です)。そして細かいことはそのあとしっかりとする、もしくは聞かれたことにしっかりこたえるのです。

 先ほどの係長と部下のやりとりだと、係長の「会議は予定通り実施するの?」という問いかけには、最初はこんなざっくりした答えで十分です。

「その予定でしたが、問題が起きました」。あるいは「やります! 条件つきですが」

 つまり、細かい説明は抜きに、「会議をやるかやらないか」の部分だけに対して、ざっくりと答えてしまうのです。

 あなたが係長の立場だったら、「そうか。で、どういうこと?」と聞きたくなりますよね。

 そう聞かれてから、部長課長が出張で欠席であること、資料は整っていることを伝えればいいのです。確かに全部説明したくなるのは、部下として間違っていない考え方なのですが、上司にストレスを与えないためには、まず相手が聞きたがっていることにこたえるほうを優先すべきですよね。

 他の例もあげましょう。会社までの道のりをこんなふうに説明されたらどう思いますか?

「駅の2番出口を出たら左に曲がって大きな道路を右手に見ながら歩いてください。その道をずっと歩いていくと左側に郵便局が見えます。その郵便局の手前の角を左に曲がってまっすぐ歩いていくとコンビニが左に見えてきます。そのコンビニがあるビルの3階です」

 今やスマホをお持ちの方が多いですから、この説明で十分たどり着けると思いますが、何か細かい情報はあるんだけどもう少しざっくりとしたイメージがほしいと思いませんでしたか? 例えば、これではいかがでしょう。

「駅の2番出口に向かってください。そこから歩いて5分のところです。大きな道に沿って歩いていただき角を一つ曲がるだけで到着できるのでわかりやすいと思いますよ。2番出口からの行き方は…(と前述の説明を始める)」

太字の部分で「歩いて5分」「大通り沿いを歩いて角を一回曲がるだけ」というおおざっぱな全体像があるだけで、ほっとしますよね。全体像をざっくりと描ければ、そのあとの細かい説明もしっかり頭に入ってきやすくなるんです。

 この考え方は、いろいろなところに使われています。例えば、テレビやラジオ、新聞などのニュース原稿です。原稿の最初は、必ずそのニュースのざっくりとした概要が書かれています。例えばこんな感じです。

「昨夜、○○市○○区で民家が焼ける火事がありました。けが人はいませんでした。昨夜7時頃、○○市○○区○○町の××さん宅から火が出ました。消防車5台が出て消火活動に当たり~」というふうになっています。このニュースで優先的に知らせるべき情報は火事のあった場所、けが人はいたかどうかです。最初の太字部分でそれを優先してざっくりと説明し、詳しい情報はあとに改めてしっかりと入れています。やはり「ざっくり→しっかり」の順番になっています。

 この説明をするときの「ざっくり→しっかり」法は、自己紹介、スピーチやプレゼンテーションなどあらゆる場面で使える万能の話し方です。この後も繰り返し出てきますので、ぜひそのたびに確認するようにしてくださいね。

 

* 心に届く話し方ルール *
まず結論からざっくり話す。細かい説明はあとまわし

松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗