米国の債務不履行は寸前で回避された。債務上限が引き上げられなければ米国債の利払いに支障が出る期限当日の8月2日に債務上限引き上げを認める法案は成立した。しかし、過少な財政赤字削減額、政治リスクの両面から、米国のソブリン(政府債務の信用)危機は再発の公算が大きい。
債務上限引き上げに関する今回の合意では、10年間で2兆1000億ドルの赤字削減をするとしている。一方、景気回復の緩慢なペースを考えれば、来年末に期限を迎えるブッシュ減税は富裕層を除いての延長が不可避と見られる。となれば、今回の合意に沿って赤字を削減しても、「10年間の累積財政赤字額は約5兆ドル」(小野亮・みずほ総合研究所主席研究員)となる。GDPに対する債務比率を40%弱も押し上げる。また、スタンダード&プアーズは、10年間で4兆ドルの赤字削減を米国債のAAA維持の条件とした。同社が格下げに踏み切る公算は大きい。
今回、合意がもつれた背景には、民主、共和両党の根深い対立がある。米国では選挙ごとに選挙区の区割りが変更されるが、その過程で「各選挙区で、ある特定の所得階層、人種が多数を占めるように区割りが変更されてきている」(石原哲夫・米国みずほ証券ディレクター)という。そのため、選出議員のスタンスが極端に振れ、党派間の妥協が成立しにくくなっている。今後も債務上限引き上げや財政赤字削減をめぐって合意形成が難航することは必至だろう。
ギリシャへの第2次支援策をまとめたユーロ圏も、財政危機の軛(くびき)からは逃れられない。支援策はギリシャの資金繰りをつけるが、財政を再建するものではない。再建のための緊縮財政策は経済を縮小させ、税収減で財政赤字幅を拡大させる。2010年の財政赤字の対GDP比が9.6%から10.5%に修正されたのが好例だ。今後、財政収支が再び悪化するようなことになれば、新たな支援策が必要になる。
また、支援策には民間投資家がギリシャ国債の債務交換に応じることも盛り込まれた。しかし、「大手銀行はともかく、顧客の資金を預かるファンドまでが損失覚悟で債務交換に応じるとは考えにくい」(藤岡宏明・大和証券キャピタル・マーケッツシニアクレジットアナリスト)。グラフに見るようにユーロ圏諸国のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドが7月末以降再び上昇に転じているのは市場が支援策の脆弱さを見抜いているからだ。
欧米が財政危機の火消しに追われているため、消去法で円高が進んでいる。しかし、債務の対GDP比が200%を超える日本の財政状態が先進国中最悪であることは言うまでもない。いまだ、有効な財政赤字削減策を打ち出せない日本の国債はいつ格下げされてもおかしくない。
これまで先進国の国債といえば、最も信頼のおける金融資産であった。しかし今、その常識が崩壊しつつある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)