政府が「働き方改革」のひとつの柱として2015年4月に国会に提出した、労働時間の長さでなく仕事の成果にもとづき賃金を払う「脱時間給」制度の法案は、野党の強い反対で、2年以上も店ざらしの状態になっている。この法案が秋の臨時国会でようやく成立する見通しが立った。
これは、従来、絶対反対の立場を取ってきた連合が、政府案を修正する具体的な提案を出し、政府もこれを受け入れることとなったためである。この問題については2年前にも取り上げた(「残業代ゼロ」法案=過労死法案の誤解を解く)が、改めてその争点について振り返ってみる。
残業割増賃金の義務付けは
必ずしも残業抑制に効果はない
残業時間を規制するための伝統的な手段として、残業労働に対する割増賃金支払いの義務づけがある。これは労働者に対する、通常の労働時間よりも負担が大きな残業労働への補償と、使用者が安易に残業労働に依存しないためのペナルティーの二つの意味がある。
職種別に同一労働同一賃金の米国の企業では、好況期に既存の社員に多くの残業割増賃金を払うよりも新規雇用を増やし、不況期にはレイオフ(一時帰休)で減らす雇用調整の方が人件費の節約となるからだ。
他方、日本では不況時にも過剰雇用を維持しなければならない。このため普段から残業に依存し、不況時には労働時間を削減して雇用を守る方式が用いられる。また年功賃金に比例した残業手当は、とくに中高年社員に魅力的となる。このように日本の長い労働時間は雇用の安定と不可分の関係にある。