いわゆる「残業代ゼロ」法案ができると、私たちの働き方はどう変わるのか?
(c)promolink-Fotolia.com.jpg

 国際的にみて長過ぎる日本の労働時間は、労働者の健康を損ね、時間当たり労働生産性の向上を阻害するとともに、仕事と家庭の両立を図る働き方への大きな障害となっている。この背景にあるのが、事実上、残業労働に割増賃金を義務付ける労働時間制度だ。これは長時間労働の防止に効果的ではないのみならず、むしろ長い労働時間を誘発することがある。

 2月13日には、労働時間の規制を改革するための労働政策審議会の分科会報告が公表された。これは昨年の産業競争力会議の答申内容を具体化したもので、長すぎる労働時間を短縮させる先進国型の労働時間規制に向けた改革への第一歩といえる。また、最低限5日間の有給休暇を企業が指定する仕組みも、初めての試みである。

実は労働時間の上限を法律で制限
目的は労働者の健康管理

 今回の制度改革のもっとも大きなポイントは、「高度プロフェショナル制度の導入」である。これは高度な技能を持ち、自らの裁量で働く労働者については、残業手当の規制を適用しない、米国の「ホワイトカラー・エグゼンプション」に類似したものである。しかし、日本では、企業間を自由に移動し「離職の自由」をもつ、米国の専門職労働市場とは大きな違いがある。このため、欧州型の労働時間の上限を規制する仕組みと組み合わせることで、労働者の健康確保を担保する措置を図っている。

 その措置とは、(1)仕事を終えてから翌日の仕事開始まで、例えば11時間の休息時間を設定、(2)実際の労働時間よりも幅広い在社時間等の健康管理時間の制限、(3)例えば年間104日の休業日数を与える使用者の義務等、多様な基準での労働時間の上限を法律で制限することである。

 法律で労働時間を規制することの本来の目的は、労働者の健康管理であり、賃金を増やすことではない。今回の改革案に対して「残業代ゼロ法案」とレッテルを張る論者は、「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度の方が望ましい」ということに等しい。もっとも、現行法でも労働組合が拒否すれば、週15時間、月45時間等の法定の残業時間制限を超えることはできないが、これは現実に実効性のある規制とはなっていない。