ウィキリークス支援やソニーの個人情報大量流出事件で世界にその名をとどろかせた覆面ハッカー集団のアノニマスが、今度はSNSの雄フェイスブックへの攻撃を予告した。今やどの企業にとっても他人事ではないハッカー攻撃の“仕掛ける側”の理屈と組織の実態を、アノニマスの研究で知られるガブリエラ・コールマン ニューヨーク大学准教授に聞く。
(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

――アノニマスは昨年、米国務省の機密情報を公開したウィキリークスの後方支援に回り、ウィキリークスとの取引を停止した企業のホームページにDDoS攻撃(標的サイトに大量のデータを送信し機能を停止させる「分散型サービス拒否攻撃」)を仕掛けたが、あれはあくまでインターネット上の言論の自由を守るための政治的な活動という触れ込みだった。しかし、今年4月にはソニーのサーバーに侵入して、登録ユーザーの個人情報を大量に取得するという行動に出た。また、8月に入ってからは、フェイスブックへの攻撃を予告している。彼らの行動原則は今、大きく変わりつつあるのか。

ガブリエラ・コールマン
(Gabriella Coleman)
ニューヨーク大学准教授。オンライン上の共同作業や組織活動・政治活動におけるデジタル・メディアの役割や法律を専門に研究する。近く『Coding Freedom(自由のためのコード)』を出版予定のほか、現在アノニマスに関する著書を執筆中。コロンビア大学で宗教学専攻、シカゴ大学で博士号(社会文化人類学)を取得。

 順を追って説明しよう。ソニーへの攻撃に先立って、アノニマスはじつは昨年9月にMPAA(アメリカ映画協会)のサイトにもDDoS攻撃を行っている。違法ダウンロードサイトのパイラシー・ベイを攻撃するために、MPAAがインドのセキュリティ会社を雇っていたことが明らかになったためだ。

 ソニーへの攻撃も、最初は同じような主義に基づいたものだった。というのも、事の始まりは、プレイステーションをジェイルブレイク(Jailbreak 直訳すれば「脱獄」、転じてセキュリティホールなどを突いてコンピュータ機器に設けられた制限を外し、開発会社らの認可を受けてないソフトウェアを動作可能な状態にすること)したハッカーをソニーが訴訟に持ち込んだためだ。ハッカーたちの理屈で言えば、コピーライトを過剰に保護しようとする企業に対する攻撃だったわけである。

 さて、ハッカーが訴えられると、いつも他のハッカーたちのアンテナが動き出す。しかも、今回はその過程でソニーが新たな扉を開けてしまった。セキュリティーホールの存在だ。それが分かった時点で、活動はアノニマスからラルズセック (主にセキュリティホールへの攻撃に特化するハッカー集団。2011年6月に活動停止を宣言)に拡大した。

 しかも、そのセキュリティホールがあまりに露骨だったために、特別なターゲットになってしまったのだ。ラルズセックはアノニマスから派生したグループで、今年3月くらいから目立って活動的になった。その意味においては、確かにアノニマスの行動の流れは変わってきたとは言える。

――フェイスブック攻撃の大義名分のひとつは、ユーザー個人情報の悪用だ。これも初耳だ。

 確かに・・・。ただ、この件については、アノニマス内でも異論が多かったようだ。多数のシステム管理者を抱えているフェイスブックのサイトをダウンさせるのは容易ではないということもあるだろうが、それだけではないようだ。(攻撃理由の是非を巡って)意見が分かれていたと聞く。