世界の金融・株式市場の動揺が止まらない。投資家がリスク資産からいっせいに資金を引き始めた。
引き金は米国だった。7月22日以降、ニューヨークダウは下落を始めた。8月2日に債務上限引き上げ法が成立しても下げ止まらず、8月5日には、史上初の米国債格下げが拍車をかけた。7月22日から8月5日までのダウの下落率は9.8%。欧州、新興国、資源国、そして日本の株価も、ほぼこれに歩調を合わせた。為替・商品市場においても、安全資産とみなされている円やスイスフラン、金にマネーが集中した。
週明けの8~9日、世界のあらゆる市場はパニックに陥った。ダウの5.5%をはじめ、世界の株式は軒並み前日比2~5%急落。ブラジルに至っては前日比8.1%もの下落に見舞われた。7月22日からの同国の下落率は19.3%に及ぶ。むろん日本も例外ではなく、8日の日経平均株価は2.2%下落し、9日には9000円を割り込んだ。4日の日本の介入でいったん1ドル=80円台をつけた円の対ドルレートも、9日には戦後最高値に迫る76円台をつけた。
市場関係者は、9日のFOMC(連邦公開市場委員会)声明発表を、固唾を飲んで待った。
FRB(連邦制度準備理事会)が打ち出した対策は、「超低金利政策を少なくとも2013年半ばまで継続する」というものだった。各国の株価は、これを受けていったんは大幅に反発するも、翌日には再び急反落した。超低金利政策の継続だけでは、混乱の引き金を引いた米国の景気減速を発端とする世界経済の失速懸念を払拭するにいたらなかったからである。
8月初め、ISM製造業指数、個人消費支出など、同国経済の失速を示唆する指標が相次いだ。年後半には上向くとみていた投資家は、あてがはずれリスク資産からの逃避を始めた。米国債格下げは財政支出による景気刺激が難しいことを決定付け、失速懸念をさらに膨らませている。
これに、欧州の財政危機が負の相乗効果を生み出している。ギリシャなどすでに財政危機にある国に対する支援策は資金繰りをつけることに終始し、財政再建を促進するものではない。加えて、ギリシャ支援では民間投資家にも負担が求められたことを嫌気した投資家は、危機国に次いで財政基盤が脆弱なスペイン国債やイタリア国債を売っている。
それどころか、スペイン、イタリアが被支援国へ転落した場合を先読みし、財政負担が増大するみられるフランスへ疑いの目を向けつつある。10日にはフランス国債のCDSスプレッドは1ヶ月前の倍の1.68%に達した。これは米国の3倍の水準だ。財政に負担をかける政策をとることは不可能だ。
頼みの綱は、中国を筆頭とする新興国だが、ここでも景気減速懸念が浮上してきている。原因は、一向に沈静化しないインフレである。対応策としての連続的な金融引き締めが、各国の景気を鈍化させ始めている。今後は少なくともこれまでと同じ高成長は期待できない。
そして、各国とも、景気浮揚に向けて打てる手がきわめて限られている。先進国はいずれも、リーマンショック後のなりふり構わぬ景気刺激策によって、財政赤字が大幅に拡大した。新たな財政支出は不可能に近い。強行すれば、格下げリスクが襲う。残る手段は金融緩和だが、商品市場の過熱という副作用をもたらした量的緩和の第三弾は望み薄だ。新興国は、インフレが足かせとなる。財政支出にせよ金融緩和にせよ、景気刺激策はインフレを加速してしまう。
世界経済は減速を甘受するほかはない。投資家のリスク回避志向は継続し、株価は低迷、円高傾向は続く。外需の落ち込みと円高は、政治の混迷で復興需要が出遅れている日本経済に大きな打撃となる。
世界は夢から覚め、冷たい現実に向き合いつつある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎、竹田孝洋)