もっとも、政府がなんら指針を出さないため、困惑しているであろうことは類推できる。

 相変わらず自治体のホームページには次のような説明が掲げられている。

 「計測の結果、これまでの測定では福島県内の学校の校舎・校庭などの利用判断における暫定的な目安である毎時3.8マイクロシーベルト(4月19日文部科学省発表)や、放射線量低減のための土壌対策の対象となる毎時1マイクロシーベルト(5月27日文部科学省発表)を下回っており、平常の生活をしても差し支えないものと考えております。」

 この連載で何度も書いているが、3.8μSv/hは20mSv/yを換算したもので、避難する基準になってしまう。つまり、「安全」と「避難」しかないわけだ。自治体は政府からこの基準しか与えられていないため、他に考えようとしない。

 食品安全委員会の評価書案を見ればわかるように、可能な限り早く1mSvへ近づける方策を考えるべきであり、工程表を作成したほうがよい。

 さて、ここで議論を混乱させているのが放射線専門家集団である。

 筆者がここまで書いてきた計数は、ICRPや日本医学放射線学会が書いている計数でもある(★注②)。ところが、専門家によってはまったく違うことを発言している。

 多くの放射線専門家の反論は以下のようなものだ。

① 放射線防護の制度上、一般公衆の1mSv/yはそのとおりだが、健康への放射線影響を考えると、1mSv/yは危険水準ではない
② 確定的影響が出現する累積100mSvまでは何も問題ない
③ 放射線の健康リスクを厳しくみるのはいいが、他のリスク、たとえば避難の経済的リスク、転地した場合の精神衛生上のリスクなどを総合的に考えて判断すべきだ

 ざっとこんな具合だ。①は当たり前で、そんなことは分かっている。制度上の上限を議論しているのだ。②は、正しくは「わからない」だが、ここでさまざまな自説を開陳する専門家が多い。

 問題は③で、要するに国民はリスクと便益(ベネフィット)を総合的に考えることができないから、1mSvという非常に低い水準を危険だと捉えてしまう。国民には専門的な議論は理解できない、困ったものだ、というのである。