新刊『心に届く話し方 65のルール』では、元NHKアナウンサー・松本和也が、話し方・聞き方に悩むふつうの方々に向けて、放送現場で培ってきた「伝わるノウハウ」を細かくかみ砕いて解説しています。
今回の連載で著者がお伝えするのは、「自分をよく見せることを第一に考える話し方」ではなく、「聞いている人にとっての心地よさを第一に考える」話し方です。本連載では、一部抜粋して紹介していきます。
指名されたらまず自分の順番と立場、
スピーチのねらいを考える
日常で求められるスピーチ(短いあいさつ)は、急に頼まれるものもありますよね。会社のプロジェクトの打ち上げ、送別会や歓迎会、プライベートでしたらPTAなどの集まりや、仲間内での単なる飲み会などなど。「では、○○さんからも、ひと言!」と言われて困った経験がある方も多いのではないでしょうか? ここからはそんなときの切り抜け方をご紹介します。
私がスピーチを頼まれたときに最初にすることは次の3つです。
(1)「出席者の顔ぶれと自分の立場」
(2)「自分の順番とスピーチする時間」
(3)「スピーチ全体のねらい」
を確認することです。
アナウンサーという仕事をしていた私も、スピーチを急に頼まれればやはり焦ります。そのときに自分を落ち着かせるために行うルーティーンが、この3点を確認することなんです。
例えば、社内のプロジェクトが終わったときの打ち上げで急にスピーチを頼まれた場合。
3つのポイントはこうなります。
(1)顔ぶれ=プロジェクトのメンバーと関係者。リーダー的存在なのか、実働部隊の一員かなど自分の立ち位置を確認。
(2)自分の前後に誰がしゃべるかを予想する。エラい人が残っている場合は総括はその方に任せ、自分は軽めのあいさつで済ませるようにする。
(3)あなたが「リーダー的な存在」なら、スピーチの大まかなねらいは「皆、よく頑張った」「次もこのチームワークで頑張ろう」などとチームをねぎらうこと、次への活力を盛り上げることにほぼ集約されると思います。
また、あなたが「実働部隊の一員」なら、「みなさん、お世話になりました」「次も頑張ります」など仲間への感謝と今後の決意が言えれば、格好はつきます。
急なスピーチでは、あまり立派なことを言わなければと思う必要はありません。何せ急に指名されたのですから、準備ができていなくて当然です。マイクを握ったら、まず、「いやぁ本日はありがとうございます。私は…」などシンプルな感謝のことばと軽い自己紹介で時間をつなぎます。その間にさきほどの3つのチェックポイントを確認しながら、大きな方針だけを決めてゆったり構えるようにしましょう。もちろん、あいさつしながらスピーチの内容を考えるのが難しいという場合は、あらかじめスピーチに指名されたらという想定で、会合に出るようにしておいたほうがいいでしょう。
くれぐれも、何かしゃべらなきゃ! とノープランでとりあえず話し始めるのは、とりとめがなくなって失敗につながるのでやめておいたほうが無難ですよ。
* 心に届く話し方ルール *
(1)「出席者の顔ぶれと自分の立場」
(2)「自分の順番とスピーチする時間」
(3)「スピーチ全体のねらい」を確認する
松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗