中央三井信託銀行の都内有力支店が6月途中から、実質、投資信託などの販売停止状態に陥っていたことがわかった。理由は投信の売買に関する行員の社内規定違反。その一つが高齢者に対する販売によるものだ。
中央三井では80歳以上の高齢者には原則として投信を販売しない決まりになっているが、家族の同席があった場合は販売が許される“高齢者ルール”がある。担当者はあたかも同席があったかのように虚偽報告をしていたという。
発覚を受けて、中央三井では内部調査を開始。その支店は顧客に迷惑をかけない範囲で投信や保険の営業活動を自粛した。その結果、投信販売の実績で上位に位置してきたこの支店の成績は急降下。こうした事態に、詳しい事情を知らない他の支店では、さまざまな憶測が飛び交ったのだ。
今回の違反行為は、2012年4月に予定されている住友信託銀行との合併に大きな影響を与える可能性がある。というのも、住友信託が合併後の主導権を完全に握ろうと虎視眈々と狙っているからだ。
合併における両行の合意では「対等の精神」を謳っているものの、統合比率は住友信託1.49に対して中央三井が1と、住友信託が優位に立っているのは周知の事実。そのうえ、事業ごとに比べてみても「法人営業はとても追いつけないし、不動産事業も不透明」(中央三井中堅行員)。
そうした状況で、合併後に中央三井が優位に立てそうな数少ない事業が、投信や保険の販売などをするリテール事業だった。そのため中央三井では、リテールの主導権だけは渡してなるものかと、「合併相手の住友信託から転職してきた行員が驚く」(同)ほどの厳しいノルマが課せられているという。
そのためか、今回は問題化していないものの、投信の売買の現場では支店によって、販売から半年足らずで同じ担当者が別の商品に乗り換えさせる手法が跋扈していると、中央三井の関係者は明かす。
これは販売や解約のたびに銀行が手数料を取ることができるため、営業成績を上げたいときに使う手法で、大手証券会社の営業担当は「繰り返せば社内でお咎めを受ける」と明かす。しかし中央三井では、販売した行員に対して支店の上司が「よくやった」と声をかける姿も見受けられ、首を傾げる行員も多い。
それだけ注力してきた事業でつまずいてしまったことで、中央三井が被った痛手は大きい。実際、不祥事が起きた支店では営業担当者たちが萎縮してしまったのか、かつての営業成績とはほど遠い状態が今でも続いている。
いずれにしても、そうした銀行の都合は顧客にとってはどうでもいいこと。そのために顧客が犠牲になるようなことがあってはならないのは言うまでもない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)