世界初のフルCGによる長編映画『トイ・ストーリー』に始まり、『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『カーズ』など、13年間に制作した8作品のすべてを大ヒットさせた映画会社ピクサー。2006年には提携解消を避けたいディズニーに買収され、ピクサーの経営陣には、不振のディズニー・アニメーション・スタジオの再建が託された。
共同創設者であるエド・キャットムル以下、クリエイター出身の経営陣が築いてきた創造的な才能とリスクを管理するための原則とプラクティスが移植され、新しい環境においてもその成果が現れ始めている。創造的組織のベスト・プラクティスとはどのようなものか、ピクサーの組織文化の秘密を、経営者が語る。
よい人材かよいアイデアか
数年前、ある大手映画制作会社の社長と昼食を共にした時、こんな話を聞かされた。彼にとっていちばんの問題は、よい人材を見つけることではなく、よいアイデアを見つけることであると。
Ed Catmull
ピクサー・アニメーション・スタジオの共同創設者。ウォルト・ディズニーによるピクサー買収後は、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオの社長を兼務する。
以来、私は講演のたびに、彼の意見について、どのように思うか、聴衆に尋ねるようになった。たいていの場合、賛否は半分半分だが、それは私にとって実に驚くべきことである。なぜなら、私はその社長の意見にまったく同意できないからだ。
彼は創造性について根本的に誤解しており、オリジナル作品の制作における原案の重要性を過大評価している。そしてそれは、ヒット作を生み出すうえで避けて通れない大きなリスクをいかに管理するかについて、そもそも考え違いしていることを反映しているといえる。
数々のヒット作を生み出してきたピクサーの実績は、技術とアートの両面で、他に類を見ないユニークなものだ。1990年代初頭、当社はコンピュータ・グラフィック(CG)・アニメーションの分野で新しい技術を開拓するリーダー的な存在として知られていた。長年にわたるR&Dへの取り組みは、95年に公開された世界初の全編CGアニメーションによる長編映画『トイ・ストーリー』に結実した。
それから13年の間に、8つの作品──『バグズ・ライフ』『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『Mr. インクレディブル』『カーズ』『レミーのおいしいレストラン』『WALL-E/ウォーリー』──を発表したが、いずれも大ヒットしている。