要約者レビュー
どの時代にも、その時代特有の色がある。とはいえ、自分が生きている時代の仕組みを見抜くのは簡単なことではない。それが急速に変化しているのならば尚更だ。
伊藤 穰一&ジェフ・ ハウ(著)、山形浩生 (訳)、366ページ、早川書房、1800円(税別)
だが本書『9プリンシプルズ――加速する未来で勝ち残るために』は、この激動の時代において、9つのたしかな原則を提示している。それが可能なのは、著者が今もなお時代の最先端に立ち続け、広い視野をもって世界を捉えているからだろう。
著者のひとりである伊藤氏は、日本人で初めてMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボ所長となった人物だ。2016年の「Thought Leaders(思想的リーダー)」のひとりにも選ばれた伊藤氏は、これからは細かいルールや戦略ではなく、文化、指針、世界観が成功のカギになると考えている。
なかでも注目すべきは、それがミッションステートメントやスローガンといったかたちではなく、神話体系のように伝えられるべき――使命と思わず神話と考えよう――と主張している点である。すぐれたリーダーといえば、すさまじいコントロール力や権力が想起されがちだが、それでは複雑で創造的な組織を率いることはできない。つまり、複雑で創造的なことを成し遂げることもできないというわけだ。
本書に登場する9つの原則は、あなたの世界観を耕すためのすぐれた指針であり、複雑で創造的な未来を創り上げるための礎でもある。新たな神話を紡ぎ出したいのであれば、本書に触れないわけにはいかない。(石渡翔)
本書の要点
(1) 絶え間なく変化する現代の特徴は、「非対称性」、「複雑性」、「不確実性」の3つである。
(2) かつて、知識の生産プロセスは特定の「権威」が主導していた。しかし現在は、複数人が関わることで生まれる「創発」が、新しい生産システムとして台頭しつつある。
(3) 詳細な地図はもはや不要だ。これから求められるのは、行くべき方角だけを示すコンパスである。抽象的な思考は、有用なコンパスのひとつである。
(4) 低コストでイノベーションが起こせる世界では、安全よりもリスクをとるべきである。