元日銀マンによって執筆されたレポートが、銀行業界で物議を醸している。主要国の金融当局がまとめた金融機関の破綻処理案が、メガバンクにとって思わぬ落とし穴になると指摘していたからだ。
「金融機関の破綻処理において、公的資金が利用される期待を無効にする」。レポートは、破綻処理の市中協議案にこの趣旨が示されたことを受け、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の日銀出身アナリストが8月中旬に発表した。
最大の落とし穴は、著しい格付けの低下だ。国内において政府の公的支援は大幅に縮小したとはいえ、それまでの銀行の破綻処理では、政府が公的資金を注入し、倒産を回避するのが通例だった。
レポートは、「海外大手銀行との比較では、邦銀はいまだ大きな政府サポートの恩恵を受けている」と、格付け会社が判断していることを重要視した。
格付け会社による銀行格付けには主に、個別行の財務基盤に基づく「財務格付け」と、政府サポートまで含んだ「預金・債務格付け」がある。
上表のとおり、二つの格付けの差が、日本のメガバンクは欧米勢と比べて大きい。みずほフィナンシャルグループ傘下の2銀行は5段階、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行でも3段階の乖離がある。
レポートは「両格付けの差が、格付け会社が評価した政府サポートの大きさ」と指摘、公的支援の期待がなくなると、その乖離幅だけ格下げされる危険があるとした。
8月24日には、米格付け会社ムーディーズが、日本政府のサポート提供能力が低下しているとして、メガバンクの預金・債務格付けを1段階引き下げたばかりだ。
金融庁幹部は「協議案はまだたたき台の段階で、大幅格下げになる可能性は低い」と見通す。しかし、その読みがはずれた場合、銀行の資金調達コストは大幅上昇が避けられないことを肝に銘じておくべきだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)