「各部門のエース級を出せ! そうでなけりゃ、本当に役立つシステムなんてできるはずがない!」

しかし、各部門長は口々に異を唱えました。

「そんな……。エース級を取られたら本業はどうなるんですか!」

ひと息ついたあと、社長は答えます。

会社の中長期的な利益を考えれば、このプロジェクトは立派な『本業』だ。だから、そのつもりで人を出せ。他のメンバーで補い合って、必要なら作業をアウトソーシングしたっていい。その費用がかかるなら、言ってくれれば出す」

そこまで言われれば、各部門長も従わざるを得ません。

そして各部門のエース級が集まり、しかもその多くが「専業」として参加したことでプロジェクトは順調に進み、コストもスケジュールも遵守する中、結果として、現場の要望に応え、会社に資する「本当に役に立つシステム」が完成したのです。

現業の体制を変えてでも、エース級をプロジェクトに参加させる。
そのために必要な費用は、長期的な視野に立てば会社のメリットにつながる。
そうしたことは、会社の経営に責任を持つ人間でないとできない指示です。

経営陣がこういうことを理解していないプロジェクトは、エンドユーザーとなる社員が十分に協力できないという制約の中で行われるので、失敗への道を突き進むことになりかねないのです。

『システムを「外注」するときに読む本』の第4章でも、発注者側の経営者が、正しくプロジェクトの意義と方向性を社員にメッセージングしなかったことで、現場のプロジェクトマネージャーが疲弊してプロジェクトが頓挫してしまい、そこからどうすれば成功へ導くことができるか。その一部始終を描いています。

ご自分の会社や業務にあてはめていただきながら、ぜひ、ご一読くださればと思います。

細川義洋(Yoshihiro Hosokawa)
経済産業省CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。立教大学経済学部経済学科卒。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員。大学卒業後、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社にて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行なう一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。
これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より経済産業省の政府CIO補佐官に抜擢され、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる。著書に『システムを「外注」するときに読む本』(ダイヤモンド社)、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか!』『モメないプロジェクト管理77の鉄則』(ともに日本実業出版社)、『プロジェクトの失敗はだれのせい?』『成功するシステム開発は裁判に学べ!』(ともに技術評論社)などがある。