行動ファイナンスは、認知心理学の成果をファイナンス研究に取り入れた研究分野だが、応用には四つの方向性がある。
当初、研究者や実務家が興味を持ったのは、行動ファイナンスが「平均よりも儲かる投資」の役に立つのではないかという可能性だった。しかし、これは、有効なパターンが見つかれば、模倣が生まれるし、そうでなくても似たパターンは続きにくい市場の性質を考えると、もともと誰にでも利用できる有望な応用可能性はなかった。
第2の方向性は、投資家が、行動ファイナンスを自己チェックに使うことだ。行動ファイナンスは投資家の非合理的な行動傾向を扱う。投資家は自分がその傾向に陥る可能性をチェックすることで損を避けることができる。これが行動ファイナンスの本来の使い方であると筆者は思う。
第3の方向性は、第2の方向性と裏腹の関係にあるが、行動ファイナンスを金融商品のマーケティングに活用するものだ。
本欄でも何度か取り上げたが、人間が間違える傾向の中には、金融商品の売り手が利益を得る「タネ」がある。売り手側は、商品設計や売り方に「仕掛け」をつくり、商品の販売や実質的手数料の拡大をたくらむ。適用する相手が市場全体ではなく、個々の顧客なので、分散効果が巧みに働き、応用としては大規模な成功例になった。
第4の方向性は、人間が間違える傾向を市場や金融取引のよりよい制度や規制に結び付ける研究だろう。十分に発展しているとは言いがたいが挙げておきたい。