最近アメリカで流行っている言葉は、「frugal」である。「つましい」とか「質素」という意味だが、つまりは節約して無駄な出費を抑え、地に足のついた生活をしようというのである。
消費主義の第一線を走り、自宅を抵当に入れてまで引き出した現金でラグジャリーに散財していたのと同じ国民とは思えないほど、最近のアメリカ人はひたすら“質素路線”を這いまわっている。そして、その流れに見事に便乗したのがクーポンビジネスだ。
インターネット動向の調査会社コムスコアによると、ここ最近、クーポン関連サイトは職探しサイトに次いで最大のビジター数を誇っている。クーポン関連サイトの今年2月のビジター数は2800万人で、これは昨年同月に比べて41%増加。3月に消費者がプリントアウトしたクーポンの割引額の総計は、何と5700万ドル(約5億7000万円)にも上るという。利用商品のトップにあげられているのは、朝食用シリアルやベビー製品だ。不況に加え、食料価格がここ1年で50%も値上がりした中で、クーポンはすっかり人々の生活に浸透したと言えよう。
買い物やレストランで割引を受けられるクーポンは、これまでも広く知られてきた。新聞を定期購読していると、決まって日曜版に分厚いチラシが折り込まれてくる。スーパー・チェーンのチラシや地元のストアーのチラシで、お買い得商品情報に決まってついてくるのがクーポンだ。堅実な消費者はこれをハサミで切り取って買い物に持参する。
スーパーだけでない。P&Gやハインツなど家庭用品や食品メーカー大手のクーポン・ブックが挟まれてくることもある。これらのクーポンを使えば、一流メーカーの商品を安くどの店でも買えるのが魅力で、人気が高い。スーパーの安売りにメーカーのクーポンを重ねて使うと激安度が増すため、賢いクーポン・マニアは細かな戦術で上手な買い物をしてきたのである。
また、オンラインのクーポンも増えた。スーパー・チェーン、地元ストアー、メーカーなどのサイトがクーポンを掲載しているのに加えて、クーポンのアグリゲート・サイトが各種クーポンへのリンクを貼って、クーポン探しを格段に便利にしてきたのである。
だが一般的に言って、クーポンを使うのはここ数年「格好悪い」こととされてきた。たった数10セントの割引のためにわざわざクーポンを切り抜き、それを持参して、レジで提示する。レジに並ぶ他の客に「貧乏な人」「ケチな人」、あるいは「暇な人」と見られるのが嫌で、クーポンを無視してきた消費者も多い。バブル経済下では、数10セントの節約に価値を見出す人は少なかったのだ。
ところが、不況がすべてを変えた。