Photo:AP/AFLO
東日本大震災を経てニーズが高まるばかりの企業向け地震保険市場。大手再保険会社スイス・リーの参入が旧態依然とした業界風土を変えつつある。
スイス・リーは再保険会社であり、積極的に表に出て営業活動はしないことから、同社の参入は損害保険業界に驚きを与えた。同社は3年前から参入に向けて準備をしており、2011年4月の日本支店設立と同時に「企業地震保険」を発売した。3月に発生した東日本大震災で地震保険のニーズが喚起されたこともあり「より大きな需要がわき起こることは間違いない」(横田峰之・スイス・リー日本支店チームリーダー)と見る。
そもそも、日本は世界有数の地震大国であるにもかかわらず、企業向けの地震保険市場は充実していなかった。地震保険のほとんどは拡張担保であり、火災保険の特約として付加されるもの。その内容は地震による物損しか補償されなかったり、事業継続のための費用の補償がなかったり、補償されるにしても金額自体も不十分な場合が多かった。
また「リスク許容量に限界があり国内大手損保会社は積極的に地震保険を販売してこなかった」(大手損保会社幹部)。
実際、日本の損保会社においては限られたリスク許容量を身内のために取っておき、系列企業との地震保険契約を優先するところが多かった。「系列外の企業が地震保険に入りたいと言っても断ることがほとんどだった」(同)という。
東日本大震災以降も、国内大手損保会社は地震保険の契約希望が殺到してリスク許容量をオーバーしかねないとして、7月1日まで新規の契約を中断していた。
そんな消極的な国内大手損保を尻目に、スイス・リーは単独で契約できる企業地震保険の提供を始めた。国内大手損保の提供するような火災保険の拡張担保である地震保険とは違い、建物の損害、それによる喪失利益、加えて事業の復旧費用を素早く支払う「事業継続費用保険金」も提供している。すでに拡張担保の地震保険を契約していた場合でも、それを補足するようにカスタマイズできる。
追随するように損保ジャパンも9月から中小企業向けに「BCP地震補償保険」を発売した。震度6強以上の地震が起きてサプライチェーンが寸断された場合などに、保険金請求後30日以内に当座の運転資金を補償するものだ。金額は1社当たり1000万~2000万円程度を想定している。損保ジャパンにとっては一手に巨大なリスク量を引き受けることはないため、多くの中小企業に対応できる。
地震保険は今後、業種や規模の大小を問わず多くの企業から注目されるだろう。身内重視の日本の企業向け地震保険市場も外資の刺激を受けてようやく充実に向かいそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)