「おしゃれなまち」には、坂道がよく似合う。東京一、いや日本一セレブな港区も坂のまちだ。23区の中で最も起伏に富んだ地形が、まちの広がりに絶妙のアクセントを与えている。名前がついた坂の数だけで、ゆうに100を超える。

 だが、「坂道のまち」はそれ故の災害リスクも抱えている。がけ崩れのリスクだ。

「坂のまち」に潜む意外なリスク
震災時はエレベーターへの閉じ込めも?

 傾斜度30度以上、高さ5m以上で、人家などに被害を及ぼす恐れがある急斜面を、「急傾斜地崩壊危険箇所」と言う。23区内に592ヵ所、その2割に当たる118ヵ所が集中する港区では、首都直下地震が引き起こすがけ崩れによって、350余棟の建物が全壊すると想定されている。雨が降り続いて地盤が緩んでいるときに地震が発生したら、被害はもっと大きくなるかもしれない。

 がけ崩れで恐ろしいのは、死亡事故に直結する可能性が高いこと。東京都の想定でも、首都直下地震による港区内の死者の4割が、がけ崩れによるものとされている。東京のど真ん中でがけ崩れとは、何とも意外なリスクである。

 坂下の谷沿いをはじめとした低地部を中心に、揺れによる被害も大きい。芝地区、芝浦・港南地区など区の東部一帯は、液状化現象の発生も懸念される。揺れ、液状化、がけ崩れを合わせた全壊建物の想定数は、区内の建物の6%、その数は2000棟を超える。

 ただし、火災による焼失面積は0.7%に留まる。予想される焼失棟数は500棟を上回るが、大きく燃え広がる危険が少ないから、逃げる余裕がある。死傷者の内訳に占める火災の割合は0.3%だ。身を守るという側面から見る限り、火災のリスクは低いといってよさそうだ。