しばしばアベノミクスについては、雇用を改善させたことが成果とされてきた。本当にそうだろうか。確かに一部の業種では人手不足が問題になり、雇用統計は完全雇用に近いが、賃金は伸びていない。まずはアベノミクス下の労働市場で何が起きているかを見極めることが重要だ。その際の焦点は労働生産性である。労働生産性が上がれば、企業にとって賃金を上げやすくなるからだ。
労働生産性の伸びを伴わない
雇用増では賃金は伸びない
雇用増と賃金の伸びの関係はどうなっているのかを見てみよう。
企業にとって、賃金を上げることがメリットと認識されれば、放っておいても賃金は上がるはずだ。ところが賃金の上昇ペースは鈍い。実際、失業率(ここでは構造的な失業を除いた循環的失業を用いる)の水準に対応する賃金の上昇率はアベノミクスの前と比べると、後の方が明らかに低い(図表1参照)。
◆図表1:下方シフトした賃金版フィリップス曲線