「商社夏の時代」を支えた資源バブルが弾け、新たな収益基盤の確立を急ぐ商社業界。財務畑出身という、総合商社の社長としては異色の経歴を持ち、丸紅のV字回復を演出した朝田照男社長に成長戦略を聞いた(インタビュアー/「週刊ダイヤモンド」前編集長 鎌塚正良、写真撮影/住友一俊)。

朝田照男
朝田照男(あさだ・てるお)
1948年生まれ、東京都出身、61歳。1972年慶應義塾大学法学部卒業後、丸紅入社。1978年ロサンゼルス支店財務担当、1990年プロジェクト金融部金融開発課長、2002年財務部長と財務畑ひと筋に歩み、2008年財務部門出身としては大手商社で初めて社長に就任。

─丸紅は2001年度決算で過去最大となる1164億円の巨額赤字を計上しました。しかし、その後リストラを断行してV字回復を成し遂げ、過去最高益を更新してきました。その原動力は何だったのでしょうか。

 野放図な経営システムから脱却し、リスク・リターンを重視するポートフォリオマネジメントシステムが根づいてきたというのがまず第一点。そして2003年から昨年前半までの攻めの経営で、重点分野への新規投資を実行できたことです。2004年以降の資源・エネルギー価格の高騰でその投資が実を結び、好業績につながりました。

─経営システム近代化の過程で、朝田さんはどのような役割を果たしたのですか。

 財務部長、そして財務部担当役員時代を通じて私が中心になって整備したのが投資効率です。新規投資を実行するときのハードルレートを設けました。昔だったら「このお客様と一緒にやるんだからしょうがない」といったかたちで、投融資委員会、経営会議を通っていた案件を、このハードルをクリアできないならば、絶対に通さないようにしました。

 それと同時に厳密なリスク・リターンなどの数値目標を遵守させようと努めました。一方で株主資本が充実しなければ投資もできませんので、財務体質の改善も進めました。

─昨年急落した資源価格はすでに底を打ったともいわれますが、今後の資源戦略をどう進めますか。

 エネルギーや鉱物資源に加えて、広い意味で資源に入れている分野があと三つあります。食料の川上、つまり穀物。そして水、植林です。

 食の安定確保という観点から見れば、食料も立派な資源。まずは穀物の年間取扱量2000万トンを目指しています。2010年度には間違いなく達成できるでしょう。穀物の産地と消費国、売りと買いをうまく結び付けることによって競争力のある商品を新興国に安定的に供給していく。それがひいては日本の食料穀物資源の安定確保につながっていくと思っています。

─穀物を2000万トン取り扱おうとしたら、同時に水も押さえるべきだと。

 そういうことです。穀物1トンを生産するのに1000トンの水が必要です。淡水というのは、地球上の水の中の2%しかなく、水資源の確保というのはこれからきわめて重要になってきます。

 植林を中心とした森林資源の確保についても、酸素を放出する自然の天然木を切り刻んでいたら、森林が枯渇してしまうわけで、当社自身が7~8年の周期で植林をしながら、回していくつもりです。すでにブラジルとインドネシアで大きな案件を行なっており、紙パルプのビジネスのなかでも重点的に進めていきます。