未曾有の円高不況が自動車業界を襲っている。かねて、「国内生産100万台体制」を維持する方針を示してきた日産自動車が講じる究極の円高対応策とはどんなものか。
この6月末、日産自動車は2016年度を最終年度とする新中期経営計画「日産パワー88」を掲げた。二つの「8」は意欲的な数値目標を表している。すなわち、世界シェアを10年度の5.8%から8%へ伸ばし、売上高営業利益率を同年度の6.1%から8%へ改善させる計画だ。
中国、ロシアなど新興国での販売が好調で、11年度第1四半期(4~6月)決算では、世界の販売台数が前年同期比10.6%増の105.6万台と過去最高を記録した。あたかも、中計の初年度から幸先のよいスタートを切ったかのように見える。
ところが、実情は異なる。急激な円高が直撃し、リーマンショック後にV字回復を遂げた業績に水を差しかねない。円高傾向は今に始まったわけではないものの08年度までは1ドル=100円を超える水準だったのが、わずか2年で80円台となり、最近では70円台へ突入するなどそのペースは尋常ではない。「購買費などのコストダウンを年率4~5%減の水準で行っている」(田川丈二執行役員)ので、多少の為替変動ならば、日産には“耐性”があるはずなのだが、今回ばかりは限界水域を超えている。
現在、日産、トヨタ自動車、ホンダの大手3社は、11年度通期の為替レートを1ドル=80円と想定している。日産の場合は、対ドルで1円円高になると200億円の減益要因となるため、仮に、1ドル=76円で着地すれば、800億円もの営業減益要因となる(図①)。
10年度と11年度見通しにおける営業利益の差異分析(図②)から、円高の深刻度が如実に見て取れる。当初の通期見通しでは、円高による為替影響を1350億円の減益要因と見ていたが、第1四半期の3ヵ月だけで550億円の減益となった。下半期に向けて、円高傾向が解消される兆しがないどころか、むしろ、さらなる利益下振れリスクが高まっている。
目下のところ、日産は、11年度の営業利益を4600億円とする通期見通しを変更していない。となれば、減益要因として大幅に積み増していた販売費、研究開発費を抑えることもありうる。
たとえば、日系3社グループで4割のシェアを握る北米市場において、「日系メーカーと同様に、輸出をしている韓国現代自動車グループは、ウォン安を追い風に“値引き原資”を蓄えている」(湯澤康太・ゴールドマン・サックス証券ヴァイス・プレジデント)。すでに、ブランド力、技術力が高いと評される韓国車が、価格競争力も備えているとすれば、日系メーカーにとっては脅威である。円高進行は、日系メーカーの利益を直接的に毀損するだけではなく、海外メーカーを競争優位にする副次的リスクをもたらすのだ。
未曾有の“超円高地獄”に直面して、日産はこの難局をどのように乗り切ろうとしているのか。
その解に奇手妙手はない。成長著しい新興国で販売数量を上げることと、コスト競争力ある生産開発体制を構築することだ。