相:「なるほど。仮に間違った結論が導かれたとしても、考えた本人には何らかの根拠、少なくとも道筋があって至ったわけなので、そこに寄り添うことはできるかもしれませんね。そう考えると、確かに、これで共感と同意の区別はつきそうです」
しっかり話を聞いているという姿勢を示す上で、この「共感と同意の区別」はとても役に立ちます。
同意を前提に話を聞き始めると、どうしても聞き手の防御姿勢が強まり、それが話し手に伝わってしまいます。その結果、話し手からすると、自分の話を聞いてもらっていないという印象を感じてしまうのです。
1on1で最も重要な目的は「部下の考え」について話すこと
この場合、聞き手へのアドバイスは、2段階ステップを踏むことです。
仕事ができる人ほど一足飛びに進めてしまいたくなるのかもしれませんが、いきなり客観的な正解を追求するのではなく、第1ステップとして、まずは相手の主観的な事実を一緒に解明していく姿勢を取ることです。
主観的事実とは「その人が、何をどう考えているのか」です。社会規範やビジネス慣行と照らして合っているかどうかは関係ありません。その初期ステップを丁寧にすると、その後の協働をスムーズに進められる可能性を拓きます。
次に、共感と同意の区別がついたところで、相談者には次の疑問が湧いてきます。以下、さらに会話は続きます。
相:「しかし、そもそも共感すること自体には、どんな効果があるのでしょうか。相手は賛同を得られたわけではないですし、したがって、自分の考えで企画を進めることができない点は変わりませんよね」
聞:「そうですね。とても大事なポイントだと思います。ここまでは1on1における傾聴の方法に触れてきたのですが、目的についても付け加えておくほうがよさそうです」
相:「目的ですか?」
聞:「はい。まず、傾聴は信頼関係を築く上でとても有効です。次に、信頼関係を築くことは何をもたらすかですが、信頼できる相手には心を開きますし、その先には、可能性をあれこれ広げて検討する際のパートナーとして機能しやすくなるというメリットが待っています」
相:「確かに、そうでしょうね」
聞:「実は、今まさに扱っている目の前のテーマについてどのような結論を出すかとか、ベストな判断は何かを特定することが1on1の目的ではないのです。もし、企画の良し悪しを検討することが目的なら、いわゆる1on1ではなく、企画検討会などの通常のミーティングを別途実施したほうがよいでしょう」
相:「え? テーマについて話すことが目的じゃないんですか?」