ニュース、検索サービス、eコマース、様々な新しいサービスを生み出し続けるヤフー。そこには、洗練されたサービスからは想像できない、一人ひとりの社員の成長を促し、組織目標を達成するための地道で泥臭い取り組みの歴史が隠されていた。ヤフーにおける社員と組織が育ち、組織目標を達成し続ける、「組織開発」の取り組みを追った。
組織開発が人を育てる
「組織開発」という言葉を聞いたことはあるだろうか? 馴染みのない方も多いかもしれないが、社員間の関係性に働きかけ、組織を元気にし、社員の学びと成長を促すアプローチ。GEやヤフーなど、多くの企業で実施され、「組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていくための取り組みやそのための支援」の総称である。
今回は、人が育つ「取り組み」としてこの「組織開発」に注目。ニュース、検索サービス、eコマースなど多くの新しいサービスをつくり出し続けるヤフーを訪問。「組織開発」で中核として活躍している同社コーポレートPD本部の小向洋誌氏にお話を伺った。およそヒトよりモノを好むエンジニア集団でどのようにして部下の成長を支援するマインドを醸成し、また、変化の激しいインターネット業界で次々と新しい事業を生み出し続けられるのだろうか?
そもそもなぜ「組織開発」に取り組もうと思ったのかを小向氏に聞いてみた。
「始まりは、2012年に始まった経営改革でした。私たちの業界は変化が激しく、新しいサービスを生み出し続けなければ、淘汰されてしまいます。でも会社が一つひとつ方針を立て、上司が部下に一つひとつ指示命令していくことは現実的に不可能です。同時に、ヤフーも大企業となってしまい、いわゆる大企業病的なところがあったのも事実です。今は大丈夫でも、5年先、10年先はどうなるのか、そんな危機感が経営にはありました。そんな中で、組織が自ら走り続ける力、いわば「自走力」を強化するために取り組み始めたのが、『1on1ミーティング』であり、組織開発だったのです」
社員が自らの才能と情熱を解き放ち、同時に新しい事業が生まれていく。そんな人が育ち、事業も育つ取り組みだ。
ヤフーの組織開発は、大きく3つのフェーズに分けられる。2012年から経営改革を進め、2013年に専門チームにより各部門の課題解決に介入、2015年から全社展開と、時間をかけて自社にフィットした取り組みを実践しながら模索している。順に追ってみたい。
2012年からの経営改革。この段階では、経営として事業戦略の再設定と徹底を行いながら、組織的には、専門部署を発足。全社を対象とした新しい組織文化の醸成に取り組んでいる。そこで取り組んだのは、理念浸透、人財開発、そして「組織の自走力」を強化するための支援の数々である。
ヤフーでは社員の目標とすべき働き方として「10倍挑戦、5倍失敗、2倍成功」といったスローガンが言われるが、本当に次から次へと組織開発支援の手を繰り出し続けている。もちろん、中には、一回だけですぐに終わってしまったものもあるようだが、この試行錯誤の数々が現在につながっている。全体を眺めてみると、その多くは社員同士の対話の機会をつくり、その質を高める活動である。
そして、ネーミングが面白い。社内FA制度は「ジョブチェン」、部下から上司へのフィードバックの機会は「ななめ会議」、など社員がなじみやすく、堅苦しさを感じない、むしろ楽しんでやれる、そんな心憎い工夫がうかがえる。