「刺さる人にだけ刺さる」ことを意図した
マーケティングのあり方がこれからの主流に

季里 同じ映像でも、テレビCMのように15秒に情報やメッセージを詰め込めるだけ詰め込んでいく方法もありますが、それでは一瞬の情報しか目に入りません。

 この本の中では、時間がゆったり流れていますよね。その雰囲気を感じ取れる心境にある人でないと、絵本動画を見ても心に刺さらないでしょう。

 自動車教習所や医療機関には待ち時間があるので、通勤途上にある“チラ見型”のようにあくせくした状況で見られることはありません。シチュエーションを考えると、おそらく気持ちにちょっと不安がある状況でデジタルサイネージを見ることになります。

 そこで画面から流れてきた情報にふと目がとまるというのは、『希望をはこぶ人』の世界との良い出合いになると思います。

松井 今回は、デジタルサイネージの前にいる方たちの心理状況まで考えたうえでコンテンツを作れたことがとてもおもしろかったですね。

 今後、映像がマーケティングの手法として非常に大きな意味を持ってくることは間違いありませんが、石戸さんがおっしゃるように、新聞広告などのマ スメディアで使ったコンテンツをそのまま流用するような発想ではダメだと思うんです。従来のやり方をいったん取っ払って、感動を共有する素材として映像を活用していくことが必要だと思います。

石戸 マーケティングという観点で言うと、今回はデジタルサイネージで新たな挑戦の一歩を踏み出しましたが、次はソーシャルメディアも使ってもっと戦略的に本の魅力を広めていけるとおもしろいですね。

 そのためには、やはり共感や感動を呼ぶことが必要でしょう。たくさんの人に一瞬だけ露出して認知を高めるというのではなく、30秒なら30秒という時間を使って「刺さる人には刺さる」というコンテンツを作ることが求められるのではないでしょうか。

松井 「刺さる人にだけ刺さる」というのは、今後のマーケティングにおける大事なキーワードですね。

 私たちが発信したメッセージがなかなか刺さらない方もいると思いますが、まずは「刺さる人」に向けてちゃんと刺さるメッセージを届けることが必要で、それができて初めて「なかなか刺さらない人」にも「刺さった人」を通じて興味を持ってもらえる可能性が生まれるんだと思うんです。

 誰かに伝えたくなるような、共感できるメッセージを届けて、そこから共鳴が始まる――絵本動画やデジタルサイネージで、そんなマーケティングにチャレンジしていきたいですね。

石戸 デジタルサイネージもまだ未成熟で、これから新しい表現を開拓していく必要があります。今は、どうすれば人を楽しませ、感動させることができて、ビジネスにもつながっていくコンテンツになるかを模索している段階ですよね。

 今回のプロジェクトは、本を紹介しているのにコンテンツとしても楽しめるものが作れたという点で、一つのロールモデルになったように思います。

 今後、デジタルサイネージ発のミリオンセラーが生まれれば媒体の価値も大きく変わるでしょう。そういった結果を出して、メディアとして次のステージに進めていけるといいですね。新しい表現、文化、産業を作るという話ですから、私もわくわくしています。


 【編集部からのお知らせ】
発売以来のロングセラー。
アンディ・アンドルーズ著『希望をはこぶ人』

定価:1,365円(税込) 四六判・上製・240頁ISBN:978-4-478-01482-0

◆内容紹介
2009年にアメリカで刊行されるや、またたく間に世界20国での翻訳が決まった話題作。
物語の舞台はアラバマ州オレンジビーチ。著者アンディ・アンドルーズ自身の経験が随所に織り込まれた半自伝的小説というスタイルをとる本作には、さまざまな悩みを抱えた人たちが登場します。身寄りを失って自暴自棄になる若者。気持ちのすれ違いから離婚の危機を迎えた夫婦。仕事もプライベートもうまくいかず、自分はなぜ幸せになれないのだろうと肩を落とすビジネスマン。最愛の息子に先立たれ、もはや生きる気力すらなくした老婦。他人を信じず、ただひたすら傲慢にふるまう事業家……。
そんな彼らのもとに、ジョーンズと名乗る老人が現れます。「歌のうまい人や足の速い人がいるように、私は人が見落としていることに気づくのが得意なんだ」と語るその老人は、悩みを抱える登場人物たちの心に、「物の見方」という人生の知恵をさずけていきます。
ジョーンズという名の老人が登場人物たちに、そして私たちに語ってくれる言葉に耳を傾けながら、少しのあいだ、あなた自身の生き方について想いをめぐらせてみてください。

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内容目次
第1章 絶望と希望
第2章 離婚の危機
第3章 愛情の表現
第4章 不安と感謝
第5章 恋愛と結婚
第6章 老いと使命
第7章 傲慢と改心
第8章 懺悔と許し
第9章 若者の未来
第10章 希望という名の贈り物