Photo:REUTERS/AFLO
泣き面に蜂とは、このことをいうのだろう。東日本大震災の発生後に、部品供給が滞るサプライチェーンの寸断、円高進行に苦しめられた国内製造業が、今度は、タイの大規模洪水に直面している。
バンコク中心部から約70キロメートル離れたアユタヤ県のロジャナ・ハイテク工業団地や、バンコク郊外にあるナウナコン工業団地など、10月18日までに冠水した工業団地は6ヵ所となった。ホンダ、ニコン、キヤノンなど、直接的に浸水被害を受けた日系企業だけで約420社に上り、トヨタ自動車、日産自動車などサプライヤーの被災により操業停止に追い込まれている企業も後を絶たない。
皮肉なのは、最近、日系企業による“タイ投資ブーム”が起きていたということだ。昨年3月に、日産は、世界160の国と地域で販売されるグローバル戦略車「マーチ」の生産をタイなど世界4拠点に集約し、部品の現地調達率アップを図った。すでに、タイ製マーチが日本の道路を走行している。キヤノンもまた、旺盛なアジア市場を睨み、タイで第2の生産拠点となるインクジェットプリンタ工場を10月に立ち上げるタイミングだった。
大企業だけではない。「震災後、むしろ、中小企業を中心に日系メーカーがタイ進出を加速させていた」(若松勇・ジェトロアジア大洋州課長)という。タイ投資委員会によれば、2011年1~7月期の外国直接投資(外国資本10%以上、認可ベース)は前年同期比1.7%減の1611億バーツ(4027億円)と微減にとどまった。
だが、そのうち、日本の直接投資は約6割を占めており、前年同期比87.4%増の906億バーツ(2265億円)と激増している。厳密にいえば、震災前の数字が含まれているとはいえ、日系企業がタイ投資へ傾斜していたのは明らかである。
そもそも、日系企業は、アジア向け製品の最大供給地の有力候補としてタイをとらえていた。震災後、サプライチェーン寸断、円高進行という“国内生産リスク”が高まるにつれて、それを回避する目的から、タイ投資が活発化したのだ。
日系企業がグローバルな生産拠点の最適配置を考えるうえで、タイは不可欠のピースである。「アジアにおける次の候補としては、ベトナム、インドネシアが挙げられるが、共に水害発生国だ。しかも、道路、港湾、電力といったインフラ整備はタイのほうが圧倒的に進んでいる。だからこそ、人件費が多少高くともタイを選ぶ」(電機メーカー幹部)。さまざまなカントリーリスク、外資優遇政策などが比較検討された結果として、日系企業はタイに集積した。
国内外で見舞われた未曾有の自然災害が、国内製造業へ投げかけた課題は重い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)