「あれ、部屋を間違えたかな」

 そう思って、その場で謝り、ドアを閉めて表札を確認してみると、やはり家は間違っていない。もう一度、玄関でベルを押すと、再び「はい」と言って、さっきの男性が出てきた。

 母親が一緒にいると、出てこなかったのだ。しかし、母親がいなくても、本人に会えてしまえば、次の約束を取り付けることができる。

 若島氏が彼に面談したところ、統合失調症などの精神疾患もなさそうだった。

 彼は現在、仕事探しをしているという。

 若島氏は、こう説明する。

「親がいなかったときに、こちらから自宅を訪ねて行けば、会うという状況が作れます。しかし、多くの場合、本人は役割を持たされていない状況が長く続いています。本人がやれることをやっていないので、自分の役割は必要ないと思っている。だから、私たちが“問題が起きているので助けて”と、お願いします。自分が助けられるのではなく、自分は助けるほうだと思えた瞬間、ルールが変わるのです」

 つまり、自分の役割を明確にさせる必要があるというのだ。

 前々回紹介したように、認知症の母親を助けるため、兄が引きこもりの弟に認知症の本を渡して「難しいので教えてほしい」とお願いしたところ、兄のために読んでくれたことがきっかけとなり、「ボランティアの手伝いが必要」と言われた弟は、いまもボランティア活動を続けているという話も同じである。

引きこもる理由を探っても
実際に外に出られるようになるわけではない

 ルールを変えるためには、コミュニケーションが必要だ。しかし、コミュニケーションは、その手段でしかない。ルールを変えられるかどうかが、そのターニングポイントになる。