洞窟を発見した時、たいていの人は中を覗いてみたくなる。しかし、そこは暗闇で中があまり見えない。気づけば奥に入っていく。
未知の世界に進んでいくことで人は歴史をつくってきた。ほとんどの地には人が辿りついているように見えるが、実際は未知の世界はたくさんある。
そもそも未知とはやや怖いものである。知らないことが目の前に来ると、ついつい知らないことを認めたくなくなる。
日常の会話でもそうである。知らない話が出てきても、知らないことを認めたくない気持が生まれる。そして「知ったかぶり」をしてしまう。
「知ったかぶり」をしてしまう頻度には差があるが、した事がない人間はほとんどいないものである。
知ったかぶりは「美人のもと」を減らす。知ったかぶりをしている人の表情はたいていわかるのだ。いつもの顔ではなくなっている。いつもの顔が少し歪んでいる。特に目と口のバランスが悪くなる。その歪みは知ったかぶりの時間が長いとどんどんひどくなっていく。知ったかぶりを繰り返すと「美人のもと」が減っていく。
実際、お店で商品について訊かれ、お客さんに知ったかぶりをしている店員さんはかなり歪んでいる。ばれているのにそれを続けるから大変だ。
知ったかぶりとは洞窟なのだ。
知ったかぶりという洞窟についつい足を引き込まれる。中が暗く、先が見えないのだが、中に進んでしまう。その洞窟には奥がある。どこまでも続く。奥へ奥へと進んでしまう。先が見えない恐怖から表情はどんどんおかしくなっていく。
知ったかぶりをしてしまったために、さらに知らないことに出会い、何がなんだかわからなくなってしまう。
その洞窟は、ほとんどが出口のない洞窟なのだ。脱出するのには後戻りするしかない。早めに後退し、洞窟から出ることが賢明である。つまり、知らないことを認めるのである。認めたうえでいろいろ教えてもらう。その時の表情は好奇心で輝いている。
洞窟から脱出できた人間はいい笑顔をするものだ。それと同じである。知らないことにこそ、未知を認め知識を吸収しようとする気持。洞窟をいったん出て、灯りを持って入っていくべきだ。