岡島 日本は給料が高過ぎると逆に肩身が狭くなる風潮がありますよね。でも、労働分配率の適正化は大切です。資産運用会社のブラック・ロックでは2017年後半の投資判断として、企業の低い労働分配率がリスクであると公表しました。それはいい傾向だと思います。ただ、報酬も大きな問題なのですが、私はいま指摘されたもうひとつの、在職期間の方がさらに由々しき問題だと思っています。たとえばGEは約120年の歴史のなかで、経営者はたった10人しかいません。ジャック・ウェルチは20年、ジェフリー・イメルトも16年CEOの職にありました。

 かりに日本企業の社長が改革に着手したとしても、任期が2年、あるいは4年だとわかっていたら、今だけしのげばいいと思って周りの人間は本気で改革に取り組まないんですよ。でも10年と聞けばさすがに変革側に乗らざるを得ないかとあきらめ、本気で取り組むようになる。あるいはオーナー社長がやるんだといったら本当にやるんだなと社員も思うので、改革の機運も高まりますよね。

平井 数年前のデータですが、「フォーチュン500」に選ばれた企業のCEOの平均在任期間が確か9.7年、と出ていたと記憶しています。やはりそれくらいなければ改革を会社に根付かせることはできないし、長期的戦略を立てることもできないですよね。

岡島 そして10年を社長の任期と考えれば、40代の社長が任期をまっとうして、50歳で次へと引き継ぐことができる。

平井 岡島さんはさまざまな企業で、次世代の社長を選び育てるための戦略的な計画「サクセッション・プランニング」を担っておられます。40代で社長になれるような人をどうやって見極め、育てているのですか。

岡島 リーダーにふさわしい資質と年齢の相関はありません。ただ、経営が複雑化する今、経営トップの意思決定の難易度と重要度が高まっています。長年、社長を選ぶ支援をしていますと、年齢ではなく、それまでの「意思決定場数」とリーダーシップに大きな相関があることは分かってきています。つまり、次の社長となる人には、意思決定の質と量を高められる場数を意識的に機会提供することが必要なのです。

 これまでは次代の社長は、それなりの実力の人を現社長が指名していれば済んでいました。しかし、こうした変化のめまぐるしい不確実な時代だからこそ、戦略的なサクセッション・プランニングは次世代のリーダーを選ぶためにも不可欠ですし、コーポレート・ガバナンスの見地からもニーズが高まっています。つまり、ステークホルダーも次世代の経営者をどういう観点で選んでいるのかを知る権利があるというわけです。ですから、先進的な企業では、第三者も交えた後継者の指名委員会というものをつくって、それがきちんと機能しています。

(構成/ライター 奥田由意 撮影/花城泰夢:BCGDV)

※後編に続く

岡島悦子(おかじま えつこ)
株式会社プロノバ代表取締役社長。経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。筑波大学国際関係学類卒業後、三菱商事を経て、ハーバード大学経営大学院にてMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年にグロービス・グループの経営人材紹介サービス会社であるグロービス・マネジメント・バンク事業立ち上げに参画、2005年より代表取締役。2007年にプロノバ設立、代表取締役就任。「日本に“経営のプロ”を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会(場)を創出し続けている。