現金をそのままポケットに突っ込んでいれば、さすがのスリも誰かのポケットの中には手を突っ込みにくいし、突っ込まれた方もすぐにわかる。だから、盗まれる心配が減る、という話も聞いた。「なるほど」と思ったものだ。

 しかし、だから中国人は財布を持たなかったのか、昔はあまり財布そのものを売っていなかったのか、「これだ」という明確な理由はわからない。

屋台でもQRコードが置いてあってスマホ決済し、現金では支払わなくなっている Photo by Kei Nakajima

 きっといくつかの要因があるのだろう。だが多くの中国人が財布を持つようになった今、再び、キャッシュレス化の影響で中国人は財布を持たない生活へと舞い戻った。財布を買えないのではなく、財布はもう必要のない時代に突入したのだ。

 日本在住の中国人が中国に住む弟の誕生日の前に、「お兄ちゃんが日本のいい財布を買って送ってあげるよ」とやや得意げにメールしたところ、弟からは「お兄さん、あのね、悪いんだけど、中国人はもう財布なんか使わないよ」と笑われてしまった、と話してくれた。

 中国の変化はあまりにも激しいので、たとえ中国人といえども、3年も母国を離れたら、中国事情に疎くなってしまうのだ。

財布に日本の紙幣を入れたときに
安心感を覚える

 同じ「財布を持たない生活」でも、その意味は10年前の中国と現在の中国では大きく異なる。

 そういえば、東京大学に留学していた中国人の男性も以前、こんなことを言っていたのが印象的だった。

「夏休みで中国に帰った後、日本に戻ってきて、財布の中に日本の紙幣を再び入れるとき、ピーンとした張り感や硬貨のズシリとした重さを感じて、『あぁ、日本に帰ってきたんだな』という安心感を覚えたものでした」