積み上がるレポート

 1週間後の第3回会合。ここでも各部門から完璧ともいえる調査報告がなされます。参加者はみな真剣に他部門の説明を聞き、鋭い質問が出たり、散発的ではあるけれど熱心な議論が行なわれたり……。

 2時間後、司会の企画室長は手元のメモを見ながら今回も各部門に新たな調査分析を割り振ります。「今回出た案がライバル社の特許侵害にならないかどうかは、もう少し法務部門で突っ込んで調べてもらったほうがいいですね。あと、技術部門にお願いしたいのは……」

 と、こういう会議が毎週続くわけです。が、いつまでたってもなにも決まりません。我が社はその新規事業に乗り出すべきなのか、今は動かずに静観すべきなのか。どこかと提携する可能性を探るべきか、それとも単独進出を目指すのか、なにひとつ決まらないのです。

 メンバーの手元にある資料のフォルダーは、会合を重ねるごとに分厚くなります。その資料のクオリティたるや、今やそのまま出版できるほどです。でも……なにも決まりません。なにも決まらないまま、ただただすばらしいレポートが積み重なっていくのです。

結局、他社の後追いで

 ある日の朝、いつものように社長は自宅を出て迎えにきた社用車に乗り込みました。運転手が車内テレビをつけると、朝のビジネスニュースが流れてきます。そこでキャスターが伝えはじめたのは、なんとライバル会社がその新規事業に進出することを決めたというニュースでした。しかも異業種の大手企業と提携することもすでに決まったというのです!

 驚いた社長はすぐに携帯電話で企画室長に電話しました。「常務、あの新規事業の件、うちでの検討はどうなってるんだ? もう3ヶ月もたつじゃないか!?」

 そのころ、常務も同じニュースを見て青くなっていました。「これは、やばい!」……そこに社長からの電話です。常務は言いました。「はい、社長、ちょうど今日、ご報告にあがろうと思っていたところです。我々としても、当社もすぐに進出すべきだという結論です!」

 結局は、他社が進出したというニュースで、「じゃあ我が社も進出しよう」という意思決定がなされてしまったわけです。何度も重ねてきた精鋭チームの議論はいったいなんだったのでしょう?