AIがあらゆる職場に浸透する日も遠くないかもしれません。そんな時代に、私たちに何よりも必要とされるのが「自分の頭で考える力」です。ベストセラー『地頭力を鍛える』で知られる細谷功氏が、主に若い世代に向けて「自分の頭で考える」とはどういうことかについて解説した最新刊『考える練習帳』。本連載では、同書のエッセンスをベースに、「自分の頭で考える」ことの大切さとそのポイントを、複眼の視点でわかりやすく解説していきます。

考えるとは「疑ってかかる」こと

「無知の知」の次に大事な考え方とは

 前回説明した「無知の知」が「考えること憲法の前文」(基本の大前提となるもので、考えるためのすべての原点になるもの)とすれば、憲法の「第1条」となるのが、この「疑うこと」です。

 要は「自分の頭で考える」ということは、すべてのことを鵜呑みにせず、言われたことや見聞きしたことに対してすべて疑ってかかり、必ず自ら検証し、他人とは違う自分なりの見解を導き出すことです。

 先述の「前文(無知の知)」を根本的な考えとしたのは、哲学の父のソクラテスでした。

 この「第1条」で有名なのは、哲学に加えて数学という「考える」ための二大学問においていずれも大きな業績を挙げて、それらの基礎を築いたフランスのルネ・デカルトです。

 幾何学の基礎を築き、数学者としても大変有名なデカルトですが、彼の残した哲学上の業績がこのような「方法的懐疑」の浸透です。

 彼は、ありとあらゆるものを疑ってかかりましたが、最後に残った「疑いようのないこと」が、疑っている自分自身の存在でした。そこから出てきた言葉が、よく知られている、

 「我思う、故に我あり

 という言葉です。

 これもまた極端な疑い方ですが、要は、考えることの基礎には疑うことがあるということの端的な表れといっていいでしょう。

なぜ、疑うことが重要なのか?

 では、なぜ、すべてを疑ってかかることが重要なのでしょうか?

 それは「自分の頭で考えることの対極にあるのが他人の意見にむやみに従う」ことだからです。

 自分の頭で考えるとは、自分なりに他人と違う見解を出すことであるなら、当たり前に見える周りの事象に対して疑問を提示し、では実際はどうなのか? を他の誰でもない自分自身の見解として導き出すためには、すべてを疑うことから始まるのです。

 デカルトは17世紀の人ですが、21世紀に生きる私たちには、さらに「疑ってかかること」の重要性がはるかに大きくなっています。

 それは、近年のインターネットやAIの飛躍的発達により、単なる知識が簡単に手に入るようになったからです。調べれば何でもわかるようになった半面、そこにある情報は、どこの誰がなんの根拠を持って発信しているものか、簡単には検証ができません。

 したがって、まず入手した情報が本当かどうか、自分の頭でしっかりと検証していく姿勢が重要になってくるのです。

 では、なぜ世の中には「簡単には信じてはいけない情報」が氾濫しているのでしょうか? もちろん、インターネット上には悪意を持って他人を撹乱しようとする人もいますが、それはあくまでもほんの少数のはずです。

 むしろ問題なのは、発信している側が悪意を持たずに発信していることや「世の中で正しいと思われている」ことの方です。

絶対的に「正しい」「間違い」は存在しない

 なぜ、このようなものも含めてすべてのことを疑ってかからなければいけないのか? 

 ここでは、2つの大きな要因を挙げて起きましょう。

 1つ目は「正しい」「間違い」といった意見は、ほとんどの場合、絶対的なものではなく「状況による」ものがほとんどだからです。

 ところが、人間というのは自分が置かれた状況が、すべての人と同じであるという前提で物事を論じがちです。

 自分が成功したやり方は、すべての人にうまくいくはずだという思い込みから、このような「間違った」意見が世の中に広がるのです。だから、これはその当人や関係者にとっては「正しいこと」でも、状況が変われば「間違い」にも十分なりうるということです。

 ここでも問題は、そのような主張をしている人が「部分しか見ていないことに気づいていない」という「無知の無知」(無知の知の逆で、無知であることを自覚していない状態)に陥っていることです。

 このようなことが起きる要因の大きなものとして、世の中の大多数の人が信じている常識やルールは、環境の変化によって陳腐化することが挙げられます。

 にもかかわらず、一度大多数に正しいと思われた常識、子供のときに身につけた価値観や一度覚えた仕事の価値観というのは、なかなか変えることができません。このために先に説明したようなことが後を絶たないのです。

 このような懐疑の矛先を向けるものの1つに「自分自身」があります。いわゆる「頭の固い」(あまり物事を考えずに1つの考えに固執する)人たちの特徴として、自分の信じている価値観を疑わないことが挙げられます。

 ある意味で、これは生きていく上での「信念」として重要な場面も多い半面、柔軟な発想を阻害する諸悪の根源ともなりえます。

 このような状態から抜け出すためのきっかけが、この自分自身の価値観を疑ってかかるということです。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント、著述家
1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業。東芝を経て、日本アーンスト&ヤングコンサルティング(株式会社クニエの前身)に入社。
2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングのみならず、問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の企業や各種団体、大学などに対して実施している。
著書に『地頭力を鍛える』『まんがでわかる 地頭力を鍛える』(以上、東洋経済新報社)、『「Why型思考法」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)、『やわらかい頭の作り方』(筑摩書房)などがある。

※次回は、11月14日(火)に掲載予定です。