以前、中国のコーヒーといえば「まずい」「薄い」、そして昨今では「日本より高い」のが当たり前だった。だが、カフェの数が増えるにつれて、いい意味で競争が始まり、ただ値段が高いだけのカフェや、サービスの悪いカフェ、うるさいカフェは成熟層から敬遠され、淘汰される傾向にある。

 今夏、私自身も上海で個性的なカフェに出合った。

上海で小説家の旧居を改造したカフェ

 日本でも公開されたことがある中国映画『ラスト、コーション』の原作者で中国の著名な女流作家である張愛玲の旧居を改造したカフェ「L’s book café &wine」だ。

 カフェスペースは広くはないが、作家の著書が展示されていて、それらを手に取って自由に読むことができる。この小説家の熱烈なファンが多いようで、店内を見渡すと、ひとりでそれらの本を読み耽る女性が多く、スマホを触っている人は1人もいなかった。

 私の隣の席では、中国人と西洋人のビジネスマンが2人で商談をしていた。わざわざこの「オールド・上海」の雰囲気を楽しみつつ商談をしようとカフェを目指してやってきたのだとしたら、かなりおしゃれなビジネスマンだ。

 当たり前の話だが、わざわざ行かなければ、カフェでおいしいコーヒーを口にすることはできない。中国では出前のアプリが浸透していて、どこでも30分程度でさまざまなジャンルの料理を配達してもらえるほど便利になった。

 一人暮らしの男性ビジネスマンなどは「週末は2日間とも出前を取り、家から一歩も外に出ない」という人すらいる。週末、中国のレストランはどこも満席で騒々しいからだ。

 確かにアプリひとつ押すだけで、誰とも口をきかないで簡単に料理が家に届くので面倒臭くない、といえばその通りなのだが、おいしいコーヒーや本格的な料理を口にしたいと思えば、出前では無理だ。わざわざ店まで足を運ぶ必要があるし、店の雰囲気や器、調度品もまた、気分を盛り上げ、会話に花を添え、心を豊かにするものだろう。