数値化された目標に縛られてしまう人々

 本来、目標は何かを得るために立てるものだと思います。

 しかし、目標を数値化してしまったことでいつの間にか数字をクリアすることが目標にすり替わり、闇雲に頑張っている人を数多く見かけます。

 成長したい、夢を実現したい。人間が求めてやまないことは数値化できないことがほとんどではないでしょうか。しかし、人は現実の行動に落とし込むとき、なぜか数値化せずにはいられないようです。

 私の診察室にも、頑張りすぎて疲れ切ってしまった人が毎週のように訪れます。とある事例をご紹介しましょう。

 その方の平日は仕事で手一杯、土日しかゆっくり休む時間がないという状況です。土日ぐらいのんびり過ごせばいいと思うのですが、その方は目標を課しました。

「月に○回以上ジムに行く」

 どんなに疲れていても、その方は律儀に目標をクリアし続けます。

 ところが、あるときジムが改装工事で休館になったそうです。それを知って心からホッとしたといいます。

「今週は行かなくていいんだ」

 普段は放置しっ放しだった片づけものを済ませ、空いた時間でのんびり散歩までできたと嬉しそうに語っていたのが印象的でした。

 その方にとってジムに行くことは、自ら数値化した義務をクリアするものでしかなくなっていました。まるで苦行に取り組んでいるかのようです。

 おそらく当初は、ジムに行って健康維持やストレス発散をしようと考えていたことでしょう。それなのに、ジムに行くことでストレスをため込んでしまっていたのです。

 その方に仕事の場面でも同じようになっていないか尋ねると、案の定、自分で目標を数値化して、かえってそれに縛られてしまっていると告白されていました。