1967年に酸化チタン光触媒を発見した、東京理科大学学長の藤嶋昭氏。毎年、ノーベル化学賞候補にノミネートされている日本を代表する化学者だ。
その藤嶋氏が、科学技術や芸術などでの文化の発展や目覚ましい功績がある者だけに授与される2017年度「文化勲章」を受章した。
今年で「光触媒」は発見50周年を迎える。その記念すべき年に『第一人者が明かす光触媒のすべて』が11月23日に発売されるという。「文化勲章」受章まもないタイミング、「発見50周年の永久保存版」「わが人生の集大成」と位置づけた書籍ということで注目が高まっている。
東海道・山陽新幹線「のぞみ号」の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建て、日光東照宮の「漆プロジェクト」から、ルーブル美術館、クフ王の大ピラミッド、国際宇宙ステーションまで、光触媒の用途はとどまることを知らない。日本だけでなく世界へ宇宙へと広がっているのだ。
2020年東京五輪で「環境立国」をうたう日本にとって、光触媒は日本発の世界をリードするクリーン技術の生命線。酸化チタンに光が当たるだけで、抗菌・抗ウイルス、防汚、防曇、脱臭、大気浄化、水浄化など「6大機能」が生まれるので世界中で重宝されている。
これからの時代、文系、理系を問わず、光触媒の知識が少しあるだけで、あなたは羨望の眼差しを受けるかもしれない。
知られざる光触媒の最前線を、第一人者の藤嶋氏に語っていただこう(構成:寺田庸二)。
日光東照宮のカビ問題
2017年3月、日光東照宮の陽明門の修理が終わり、話題となりました。
日光東照宮はおよそ400年前に建てられた木造建築で、江戸時代の芸術をいまに伝える世界遺産です。
日光では、冬は雪、夏は雨がたくさん降るため、建物も彫刻もとても傷みやすく、良好な状態を保つには常に手を入れ、修理を繰り返す必要があります。
特に、彫刻の施された建物の表面は、江戸時代と同じやり方で何度も漆を塗り重ね、天然の岩絵の具などで彩色していくという伝統の技が受け継がれてきました。
けれども、漆塗りされた建物の表面を調べてみると、カビが発生している箇所が多数見つかりました。
世界遺産を末永く未来へ手渡していくことを考えると、いま、何か新しい手を打つことはできないか。
そうした思いから、光触媒の抗カビ効果を活用した文化財の保護という新たな適用分野の開拓が始まりました。
まずは、実際に日光東照宮の建物の漆塗りの表面に発生しているカビを採取し、研究室に持ち帰り、真菌の種類を同定することが第一歩です。
これまでの研究から、真菌の種類によって光触媒による死滅速度が異なることがわかってきているからです。