上場企業と東大生

村上:上場企業も、東大生モラトリアムに近いってこと?

朝倉:学歴のレールに似たところはあるんじゃないですか?いい高校に入って、いい大学に進学して、いい会社に就職することを人生の成功と捉える、みたいな。

 たとえば、スタートアップが資金調達に成功すると、なんとなく世間から事業の可能性や実力を認められたような気にはなる。けれども資金調達って、本来は自分たちの事業を大きくスケールさせるためにすることじゃないですか。資金調達なんかせずに自分たちのしたい事業ができるなら、する必要はまったくないはず。けれども資金調達すると、メディアにも会社のことが出るし、勢いのある会社だっていう雰囲気も出る。

 起業家が資金を調達するのは、もちろん事業を開発するための資金の確保というのが最大の理由のはずだけど、そうした気分の問題も多少はあるんちゃうかと思うんです。そうしたレールの延長線上には、当たり前のように上場がちらつくわけですよね。他人様から投資を受けてスタートアップのレールに乗った以上、イグジットを狙うのは当然の責務ではあるけれど、上場して以降の姿を十分に描ききれているのかと言えば、なかなかそうでもない部分もあるのかなと。

村上:確かに、入学直後の東大生の雰囲気に近いものはあるかもね。

朝倉:資本政策だって、本当は自分たちの会社の規模感やステージ、事業内容によって適切な資金量って全然違うわけじゃないですか。けれども、内輪でなんとなくまわりの起業家の調達額やバリュエーションと比べてしまう。本当は数千万円で事足りるはずなのに、周りの起業家を見ていると「あそこは3億円調達しているんやから、自分たちも、もっといかなきゃ」と感じてしまう側面がどうしてもあるんかなと、起業家と話していて感じることがままあります。みんな負けず嫌いですしね。

*次回【ポストIPOについて Vol.3】「『信長の野望』に学ぶスタートアップと上場企業の採用戦略」に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年9月15日に掲載された内容です。

目的なく上場して戸惑うスタートアップは、頭のよい東大生が就職でふと悩むのに似ている【ポストIPOについて Vol.2】朝倉祐介  シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締 役。Tokyo Founders Fundパートナー。


目的なく上場して戸惑うスタートアップは、頭のよい東大生が就職でふと悩むのに似ている【ポストIPOについて Vol.2】村上 誠典  シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。


目的なく上場して戸惑うスタートアップは、頭のよい東大生が就職でふと悩むのに似ている【ポストIPOについて Vol.2】小林 賢治  シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。