カミに見放されし者は、そのウンを自らの手でつかめ
オレがトイレに入ってる間にやって来たのだ。
前回と同じく、ジーンズに濃い茶色のTシャツを着ていた。
どう見ても金は無さそうだったが、不思議な力を持っていそうな印象は変わらなかった。
最初の洗髪が終わると、太朗さんに代わってもらい、自分で切ることにした。
「お客さん、今日はどんなふうにします?」
「任せるわ。髪型のことようわからんしな」
「じゃ、だんだん涼しくなるんで、耳にかかるぐらいで」
「そんな感じで頼むわ」
洗髪で潤った髪に、切りやすいようにクシを入れていると、男がじっと、鏡の中のオレを見ていた。
そして、ボソリと言った。
「カミに見放されし者は、そのウンを自らの手でつかめ」
オレはハッとした。
――この男、オレのことを覚えている。オレがこの店をなんとか繁盛させようと思っていることを知っているんだ。千里眼を持っているに違いない。
「わかるか?」
「はい」
「どういう意味や?」
「神様に見捨てられても、やりようはある。自分で努力して運をつかめ、ですよね」
「ちゃうがな」
「へ?」
「便所で紙がない時は、ウンコを自らの手でつかむしかない。人間、困ったら何でもやる。それが人間や、いうことや」
――この男、なんなんだ!?