西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「行列ができる理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。
理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……。
12/6配本の新刊『小さくても勝てます』の中身を、試読版として公開します。

日本人は戦略的発想が苦手

ちなみに戦略系経営コンサルタントとは、それまでのコンサルタントのように何らかの業界で活躍していた人がそのノウハウを伝授するのではなく、企業をコンサルタントすることそのものを仕事とする職業である。

各種経営改善、経営改革のノウハウ、問題解決スキルを駆使し、毎月の顧問料というカタチではなく、プロジェクトごとに高額の報酬を得る経営の専門家のことだ。

1960年代ぐらいにアメリカを中心に欧米各国で生まれた職種である。

「戦略ってなんですか?」と太朗さんは踏み込んだ。

「日本人は勤勉だから、基本的にはみんな頑張る。でもな、『何を頑張ればいいかを考えること』を知らないんや。例えば、日本のヤクザ映画では果たし合いをする時『表へ出ろ!』だけど、007のジェームズ・ボンドは、すかさず相手の上着をずり降ろして、両手の動きを利かなくしてからボコボコに殴るわけや。こうして、まず相手の動きを利かなくすることこそが『戦略的発想』なんやけど、日本人はなかなかでけへんのや。ところが、欧米人はこれができるから、差がつくんや」

男は、そう言って、さらに解説を続けた。

「戦略とよく似た言葉に『戦術』がある。『戦術』とは戦いに勝つための具体的なやり方、『戦略』は長期的視野と複合的思考で資源を活用する技術や。これをボクシングで例えるとな……」

左ジャブ、右ストレート、左ボディフックのコンビネーションを武器にすることが「戦術」と言える。

それに対して、12R(ラウンド)の戦いをするとしたら、1Rから3Rまでは積極的に前に出て戦い、ポイントを稼ぐ。

4Rから8Rまでは下がりながらカウンターを狙い、エネルギーの回復を図る。

その間、ポイントで負けることは覚悟する。

9Rから12Rは敵の疲れたところを狙って前に出る。

これで、あわよくばKO。

たとえKOができなくても、前半3Rと後半4Rで、こちらが合計7R、相手が5Rを取って「判定勝ち」の確保を狙う。というのが「戦略」である。