ゲーム理論がビジネスに効く3つの理由
ビジネス誌『ファスト・カンパニー』は2005年に、誰もビジネスにゲーム理論を使おうとしない、とぶちあげる記事で大きな話題を呼んだ。しかしこの記事には具体的なビジネスリーダーに取材をした形跡が見られない。取材をしていれば、きっと記事とは異なる見解を聞き出せたはずだ──ゲーム理論がいかにリーダー自身とビジネスにとって戦略的優位をもたらしうるか、そして実際にどれほどその恩恵を受けているか、彼らは多くを語ったに違いない。
第1に、ゲーム理論はビジネスの戦術構想を助ける。ビジネスにおいてもっとも明白にゲームが繰り広げられるのは、価格をどう設定し、新商品をどう立ち上げるかといった戦術のレベルにおいてだ。世界中の経営コンサルタントが、勝利の戦術を戦略的にアドバイスするべく、ゲーム理論を駆使している。
アメリカの軍事計画に携わる人々も、はるか以前から、軍事戦術に対するゲーム理論の有用性を認識してきた。大型のミッションの実行前には必ずといっていいほど「ウォーゲーム」が行われる。敵役と味方役に分かれ、敵役となった将校が敵の目標達成を目指してシミュレーションをするのだ。それによって、味方側の戦略の弱みが浮き彫りになる。より堅牢な最終計画を練るにあたり、このウォーゲームは欠かせないプロセスだ。
だが、コンサルティング会社マッキンゼーが1800人以上のビジネスリーダーを対象に行った調査では、重要な事業判断を下す際に2つ以上の選択肢を検討するリーダーはほぼ半数であることがわかった。競争相手の反応まで事前に検討するリーダーとなれば、さらに少ない。ゲーム理論をもっと有意義に取り入れていれば、それは当然、組織に優位性をもたらすはずだ。
第2に、ゲーム理論は行動を起こすための洞察力をもたらす。私たちの周囲ではさまざまなゲームが繰り広げられている──その多くは私たち自身にはほぼ制御不能だ──が、ゲーム理論を通じて概要を把握していれば、他者を出し抜いて、その先の展開を理解・予測できる。戦略コンサルティング会社のリーディングカンパニー、モニター社の企業金融部門名誉会長トム・コープランドが指摘している。
「寡占状態が赤字になりやすい理由も、生産能力過剰と供給過剰のサイクルも、最適な選択肢が現れる前に現実的な選択肢に走る傾向も、ゲーム理論で説明がつく」
第3に、これがもっとも重要な点なのだが、ゲーム理論には組織文化を変容させる力がある。組織はゲームの「プレイヤー」となるだけでなく、組織自体が、そこでさまざまなゲームが展開される「ゲーム盤」でもあるのだ。部署間、部下・上司間、オーナーと経営陣、さらには株主や債権者においてもゲームが生じる。全員がともに伸びていける文化と構造を、その組織のリーダーがつくり出しているのなら、ゲーム理論はビジネスのポテンシャルを最大限に開花させる後押しになる。