大好評の『真田丸』に見る
戦国武将たちの意思決定能力
本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
大河ドラマ『真田丸』が好評だという。筆者もマレーシア在住ながら、ケーブルテレビで毎週観ている。毎週観たいと楽しみに感じる大河ドラマも久しぶりだ。
そして、その内容は心理学者として、またビジネス研究に関わるものとして、大変に興味深くもある。それは当時、目まぐるしく状況が変わり先が読めないという高い「不確実性」の中、戦国武将たちがいかに意思決定を行ったかを丹念に(もちろんドラマティックに)描いているからだ。
さらに、ビジネスの観点から見ると、戦国武将という「上司」が、いかに部下である家臣たちと関わりつつ意思決定をするかという点が面白い。
歴史の経緯を知っている私たちは、彼らの意思決定の結果を知っている。過去の歴史ドラマには、卓越した能力を持った有名武将が、その能力をもって個人的に素晴らしい決定をする、といったような描写が少なくなかった。だが、実際には当時の彼らは、そんなに迷いなくカッコよく決断することなどできなかっただろう。
むしろ五里霧中の中で物事を決めざるを得ず、自分の決定に大いに迷ってもいただろう。現在のようにマスメディアもインターネットもソーシャルメディアもない時代だ。何が本当に起こっているかを知ることだけでも至難の業だったはずだ。脚本家の三谷幸喜氏は、その「意思決定の苦しみ」の部分を実に面白く描いている。
その中でも、第5回放送で本能寺の変の後、内野聖陽扮する徳川家康と、草刈正雄の演じる真田昌幸の意思決定の「仕方」の対比が、心理学・ビジネスの側面から見ると、非常に興味深かった。
本能寺の変が起こったのち、多くの武将は「何か大変なことが京の都で起こったらしい」という程度の情報しか持ち合わせていていなかった。当時、堺にいた徳川家康でさえ、織田信長が討たれたかどうかも確信が持てなかった。織田家臣の滝川一益に至っては京の変事すら知らなかった。
これらはドラマの中での話なので、史実がどうであったかは定かではない。だが、一種の思考実験としても、この不確実状況で、各戦国大名がいかなる意思決定方法をとったかを比較してみるのは興味深い。