ダイヤモンド社刊
絶版

「事業の成長は成果への報奨であり、喜ぶべきことである。ところが、成長が災厄となる中小企業が多い。順調かつ急速に成長しつつあるかに思われていたものが、コントロール不能となり、深刻なトラブルに陥る。この危機を乗り越えられるものは多くない。たとえ乗り越えたとしても、かっての成長力は影を潜めたままとなる。運よく回復して成長路線に乗ったとしても、一度負った傷はなかなか癒えない」(『変貌する経営者の世界』)

 ドラッカーは、ほぼ20年間、米国を代表する日刊の経済新聞「ウォールストリート・ジャーナル」への寄稿を重ねた。何を書いても、その日のランチで話題になった。しかも、なかなか内容が腐らなかった。

 特に、1977年に書かれた中小企業向けのアドバイスは、今日でもそのまま通用する。成長を災厄にしないための処方は何か。

 第一に、成長は資金繰りを悪化させる。したがって、キャッシュに目を光らせておかなければならない。利益に目を奪われてはならない。利益は、緊急時の留保ぐらいに思っておいたほうがよい。

 第二に、成長は財務構造の変化を要求する。資金源を高度化していかなければならない。必要なときに必要な種類の資金を手にするには準備が必要である。

 第三に、成長には情報が不可欠である。経理の数字だけではとても足りない。成長すればするほど、顧客と市場の情報を必要とする。特に、顧客になっていて不思議でないにもかかわらず顧客になっていない人たち、すなわちドラッカーが言うところのノンカスタマーについての情報が必要である。

 第四に、成長には廃棄が必要である。製品、工程、流通チャネルを不断に見直し、自ら陳腐化させていかなければならない。

 第五に、オーナー創業者がすべてを引き受けることなしに、トップの仕事はチームで分担するようにしなければならない。健全に成長する中小企業にワンマン経営者はいない。そもそも、ワンマンであったのでは、本人が先に倒れてしまう。

「中小企業にとって、成長の危機による傷から回復することは、不可能ではなくとも至難である。しかし、それはかなり容易に防げる。また、防がなくてはならない」(『変貌する経営者の世界』)