10月に業務停止処分が下ったアディーレ法律事務所。元代表の石丸幸人弁護士は、弁護士業界では一、二を争う“嫌われ者”。「言ってはいけないことを言い、やってはいけないことをやった」とささやかれるが、一体何があったのだろうか?(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

弁護士業界の鼻つまみ者
アディーレ懲戒の背景とは

 誰か、“その男”に弁護士としてのモラルを教えてやる者はいなかったのか。もし、いたならば、男は、「法律屋」に成り下がることはなかったかもしれない――。

 10月、弁護士法人「アディーレ法律事務所」が度重なる景品表示法違反で東京弁護士会(以下、東弁)により2ヵ月の業務停止処分を受けた。元代表の石丸幸人弁護士(45)も、個人として業務停止3ヵ月の処分を受けている。いわゆる「アディーレ事件」だ。

「アディーレは弁護士ムラの掟を踏みにじった」懲戒処分の舞台裏消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けたことが、弁護士会による懲戒処分につながった。「違反の程度に比べて懲戒処分の内容が重すぎる、アディーレ憎しで処分したのでは」との憶測も飛び交うが...

 アディーレは2004年の設立以来、ずっと拡大路線を取り続け、弁護士・司法書士を含め総勢300人規模の「大規模法律事務所」として知られる。当然、顧客数もかなりの数に上っていたと見られる。

 業務停止処分期間中、弁護士は業務をしてはならない。困った顧客たちから、東弁に電話が殺到した。小規模事務所が大半の弁護士業界にあって、アディーレのような大手に業務停止処分が下ったのは初めてのこと。東弁は顧客からの問い合わせが殺到することを想定して、「10本の電話回線を新設して、午前9時から午後5時まで、1日40人態勢で弁護士が相談に応じた。20日くらいで、延べ800人の弁護士を投入した。これは弁護士会始まって以来のことです」(東弁)。

 アディーレは弁護士業界では“鼻つまみ者”として有名だった。2000年の広告解禁、そして06年頃から急増した過払い返還訴訟といった時代の流れにうまく乗り、主に「クレサラ」(クレジット・サラ金の略、過払い返還も含まれる)分野で大躍進し、金儲けに成功したからだ。債務者の資金繰り相談にじっくり乗るスタイルの、「古き良きクレサラ弁護士」たちからすれば、まさに目の敵のような存在である。

 関西の単位会(都道府県)で弁護士会副会長を務めた弁護士は、法律家らしからぬ満面の笑みを浮かべながら次のように語った。

「今回の東弁の一連の動き、そして、その処分の厳しさに鑑みるに、『弁護士界から出て行ってくれ』ということだろう。弁護士には言ってはいけないこと、してはいけないことがある。石丸という人物はそれを言い、した。その報いだな」

 実際には、弁護士の懲戒は弁護士7人に加えて、判事、検事、そして有識者合わせて6人、合計13人からなる「懲戒委員会」で審査される。いくらアディーレが弁護士会界隈で嫌われていたとしても、「弁護士の意向だけが反映される体制にはなっていない」(東弁)。

 しかし今、アディーレの懲戒に関して、前出の弁護士と同じように考えている弁護士は数多い。それほどに、アディーレへの怒りが溜まりきっていたのだ。弁護士の「言ってはいけないこと、してはいけないこと」とは何か。話は09年の東弁の会長選に遡る。