ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】#46

昨年、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年超の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」1995年2月11日号の記事「ビールでないビールに賭けた崖っぷちサントリーの意地」を紹介する。悲願のビールシェア2桁を目前に失速し、94年には5%台まで低下したサントリーは同年10月に発泡酒「ホップス」を発売した。当初、スーパードライの大ヒットで好調のアサヒビールや、王者キリンビールは「ビールでないビール」には冷ややかだったが、後に熾烈な「発泡酒戦争」が勃発する。記事では、サントリーが発泡酒を投入したきっかけや、競合各社の思惑などを紹介している。(ダイヤモンド編集部)

サントリーが発泡酒、ホップスを発売
低価格が強みの新商品の滑り出しは順調

「線香花火じゃない。ホンマモンになってきたんじゃないかな」

 村松登・サントリー取締役ビール事業部副事業部長は、昨年10月に発売したビールでないビールの発泡酒「ホップス」に対する自信を深めている。

 10月20日に発売した時点では静岡県だけの限定販売だった。だが、年内に5万ケースという当初の見込みは発売3週間で達成。12月に関東甲信越、近畿など販売エリアを広げて50万ケースという目標を立てたところ、発売前の注文だけで60万ケースもあった。結局、年内に100万ケースを販売した。

 だが、ここまでだったらまだ「線香花火」。村松取締役が自信を深めている理由は二つある。

 一つは先行販売した静岡県での購入形態の変化である。発売した350ミリリットル(レギュラー)缶と500ミリリットル(ロング)缶の2種類のうち、発売当初はレギュラー缶が70%、ロング缶が30%の割合だった。ところが4週目から変わった。ロング缶が55%、レギュラー缶が45%と、その比率が逆転したのである。一度飲んでみた人がリピーターとなって戻っている証左だ。

 もう一つは大手コンビニエンスストア(CVS)での好調である。

「静岡も含めてホップスの販売地区では全て、ビール売り上げのベスト5前後を行ったり来たりだ。非常に当たりはいい」(大手CVS関係者)

 CVSでのビール売り上げ1位から3位は「一番搾り」「スーパードライ」「ラガー」の御三家。ということはいつもは4位が定位置のサッポロビールの「黒ラベル」を抜いていることもあるということだ。最近のビールの新商品では珍しい、なかなかのパワーである。

「週刊ダイヤモンド」1995年2月11日号「週刊ダイヤモンド」1995年2月11日号

「ホップス」は水以外の原料に占める麦芽の割合を65%に抑え、酒税法上はビールではなく、発泡酒に分類されるアルコール飲料である。

 麦芽の割合が67%以上だとビールで、その酒税は350ミリリットルで77.7円。それが発泡酒の「ホップス」では53.5円になる。その差額24.2円分だけ節税になる計算だ。

 サントリーはこの節税分にさらに、包材や配送などのコスト削減と流通のマージンを引き下げることによって20円を値引きして、希望小売価格を350ミリリットルで180円に設定した。

 一般のスーパー、CVSでも350ミリリットル缶で希望小売価格225円の国産ビールが190円台、180円台で売られている。ディスカウントストアへ行けば160円台さえある。200円ではなく、180円にしなければ競争力に自信が持てなかったのだ。

 だから、サントリーは否定するが、「かなり無理をしている。あの価格で採算を取るのは厳しいだろう」というビール関係者の声もある。

 サントリー以外のビールメーカー各社は、「ホップス」が消費者にどう受け止められるかを遠巻きにして見守っているところだ。