「人が渦」を巻く場所
3年後、伊神氏は、目の前で「人が渦」を巻く場所を見つける。
それは、ダイヤ街の道が分岐する場所で、人の流れが合流し、また、どちらに行こうかと逡巡する場所であった。
「ここしかない」
そう天才起業家・伊神照男氏は決意した。
当時、そこには靴下修理の1坪の店があった。その時代は靴下も直して使っていたのだ。
なんと、その1坪という場所を、地価の3倍という法外な値段で買い取り、しかも、そこで営業していた人たちの面倒を3年間もみたというのだ。
毎月支払う額は、当時の初任給の数倍にもなる額で、それをその家族のもとに持っていく際に、稲垣氏は周囲を気にしながら用心深く歩いたというほどだった。
それほどまでにして、伊神氏が手に入れたかった場所に、毎朝、人が列を作るようになる。それ以後、40年以上、現在に至るまで、行列が途絶えたことはない。
長年、様々なビジネスを興し、時に成功し、あるいは失敗して培ってきた伊神氏の起業家として言語化されないレベルまで昇華された「勘」や研ぎ澄まされた「嗅覚」が、千客万来の未来を鮮やかに想い描いたのだろう。