100万人以上の従業員を雇用し、アップル製品の製造を請け負っているEMS世界最大手の台湾フォックスコン(鴻海精密工業)が先月19日、中国・深センにある主力工場で、「社員表彰式」を催した。毎年恒例となっている式典で、中国全土から集まった数十万人の従業員が見守る中、優秀工員に選ばれた200人が表彰された。
現地報道によると、同社の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が表彰者ひとりひとりに賞金5000元(約6万円)、同社が生産するスマートフォンのiPhone4を手渡した。さらに来年春の台湾旅行も贈呈されるといい、“豪華プレゼント”に多くの従業員は羨望のまなざしを送った。何しろ、毎日自分たちが組み立てているとはいえ、iPhone4だけで月給2ヵ月分の値段なのだ。
しかし、会長はこの晴れ舞台で“ある噂”を打ち消すことも忘れなかった。それが「自動化ロボットの大量導入による、従業員のリストラ」だ。
フォックスコンが急成長したのは、世界中のパソコンや携帯電話、ゲーム機といった電気製品を、高い品質のまま、圧倒的なスピードとコスト競争力をもって作ることができたからだ。中国に20ヵ所以上ある巨大工場群の敷地には、従業員の住まいから食品工場、病院までが並ぶ「ひとつの町」となっている。そこで無尽蔵ともいえる労働力の恩恵をうけて、ビジネスを拡大したのだ。
ところが中国ではかつてない賃金の上昇が続いており、企業の懸念材料になっている。2010年の平均賃金は3045元(約3万7000円)と、05年比で2倍の水準に達した。特に沿岸部での高騰が激しく、深センエリアでは、台湾の月額最低賃金(約1万7000台湾ドル=4万4200円)に迫っているとさえいわれている。
またフォックスコンに特有の事情もある。昨年、工場で働く従業員14人が相次いで飛び降り自殺をしたことが社会問題となった。それを受け、内外に待遇改善をアピールする必要に迫られて、一気に給料を2倍以上に引き上げるなど、大きな人件費アップの波を受けているのだ。
そこで今年夏から郭会長が口にしているのが、「3年後までに100万台のロボットを導入する」という計画である。同社は日本から産業用ロボットを多数買い付けているが、実は自社内でもロボット製造を始めており、工場の無人化・自動化をより加速するということだ。
偶然なのか、ロボットの導入目標数の「100万台」という数字は、「100万人」を突破した同社の従業員数とイメージ上で重なる。そのため一部の従業員から「ロボットのために、自分たちがそっくり首を切られるのではないか」という極端な“噂”につながったという。
式典でも、郭会長はロボットの導入計画を説明した上で、「いかなる経済事情でも、解雇はしない」「従業員には(ロボットより)もっと高度な仕事をしてもらう」と、従業員の雇用を守ることを約束した。そして冒頭の「豪華プレゼント」を配ったのだが、人件費高騰による生産体制の見直しが注目される現状で、従業員たちの不安を打ち消すのに十分な効き目はあったか。そこまでは窺い知れない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)