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“戦力外”となったテレビ用液晶パネル工場は、引き取り手を見つけられるのか──。
パナソニックが自社の液晶テレビなどに使っている液晶パネルを生産する茂原工場(千葉県、32型換算で年産720万枚)について、売却に向けた取り組みを加速させている。同社のテレビ事業は約1兆円の売り上げ規模を誇る中核事業ながら、採算は悪化している。その見直しの一環だが、肝心の引き取り先との交渉は二転三転し、“漂流”している状態だ。
「すでに中核の技術者は姫路に移転ずみ。あとは交渉先からの返事があれば……」。あるパナソニック関係者は、茂原工場はいつでも譲渡できる状態だと明かす。第6世代と呼ばれるひと昔前の液晶パネルの生産ラインは、世界的に大型化が進むテレビ向け生産設備として急速にコスト競争力を失っている。しかし、需要急増中のスマートフォンやタブレット型端末に使う高精細な中小型パネル向けであれば、売り物になると考えた。
当初、交渉先に浮上したのが世界最大手のEMS(生産受託会社)メーカーである、台湾のフォックスコン。同社は米アップルのiPhoneやiPad、ソニーのテレビなどの生産を引き受けており、提携する日立製作所を通して新工場を設立するという話まで出ていた。茂原工場はもともとパナソニックが日立から買い取った経緯があるため、リメークして新工場にするという、いわば“買い戻し”を期待したのだ。
一転、今年6月以降に産業革新機構が中心となって、東芝、ソニー、日立の3社を統合し中小型液晶パネル製造の新会社をつくる「さくら連合」なるプロジェクトが浮上。フォックスコンとの話は流れ、にわかに工場の売り込み先は、2000億円の資本の7割を拠出する産業革新機構に変更することに。新しい生産拠点の一つとして使ってもらえるよう、条件交渉を進めてきた模様だ。
ところが新会社は各統合子会社の工場の寄せ集めで、「パナソニックの工場まで買う必要があるのか」(産業革新機構幹部)という疑問の声が浮上。茂原工場を高精細な中小型パネル向けの生産ラインに改造するだけで、約500億円の費用がかかるとされ、「数年後に設備過剰になるリスクすらある」(証券アナリスト)。“官製ファンド”の産業革新機構の資金の大半は税金であり、甘めに見積もった買収は許されない。
そこでパナソニックは、売却予定にもかかわらず、モバイル向けの生産ラインの改良を計画。社内でも「もらい手が見つからない工場に、“お化粧”を施して、嫁入り道具にして売り込むラストチャンス」とささやかれている。
新会社は31日に設立会見をする方向でスケジュール調整を進めているが、新しい生産拠点にパナソニック茂原工場の名前が含まれているか定かではない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義、藤田章夫)