楠木 そこでイノベーションという考え方が出てくるわけですが、私が割と大切だと思う切り口に、「イノベーション」と「進歩」という現象を分けて考えることがあります。イノベーションは進歩ではない。何が違うかといえば、「非連続性」の有無です。

 例えばデジカメの画質が良くなるとか、スマホがどんどん薄く軽くなる。価値の次元で連続するので、そういう現象は進歩です。

 イノベーションとは「何がいいか」という「価値の次元そのもの」の変化です。だから、例えばプレゼンに使うプロジェクターが、ポケットに入れて持ち運べるような大きさになったとする。それは先ほどの分類ではイノベーションではない。「すごい進歩」なのです。

 日本発の製品イノベーションでは、例えばソニーのウォークマンです。発売当時、既にいい音質で再生できる技術はありましたが、人間を物理的制約から解放し、音楽がいつでも聞ける新しい楽しみを提供した。だから音のいいステレオ装置を持っている人も、またお金を使いました。

吉川 これからの日本市場は、価値創出へ大きな役割を果たすための、ある種の実験場として考えるべきです。

 もちろん、欧米やアジアなど海外でビジネスチャンスを見つけるのもよいですが、それとは別に国内で次世代のモノやサービスへの新しい価値を創り出す試みこそ、イノベーションに通じるのだと思います。

楠木 供給側の事情を見ても、いろんなものが十分に良くなって行き詰まっている社会の方が、イノベーションの動機は大きくなります。日本の自国市場について、高齢化が新しい価値次元の源泉といえるのは、それが将来ものすごく大きなスケールで中国など他の市場にも確実に起こるからです。その点でかなり時間軸のボーナスをもらっている面があります。初めは自国市場で始まっても、それがグローバル展開する可能性が高い。

吉川 日本発の具体例として、私は個人的に紙おむつの動向に着目しています。紙おむつは赤ちゃん用に始まった後、高齢社会を見据えた日本で開発が進み、高齢者用の市場が発達してきました。