日本を代表する歴史人口学者の速水融氏は、「人口が減ることは必ずしも悪いことではない。むしろ、恩恵も多い」と言う。長い視点で見ると、人口減少は社会にどのような影響を及ぼすのだろうか。(まとめ/フリージャーナリスト・室谷明津子)

人口減少を歴史から考える
「歴史人口学」を知っていますか?

人口が増えている時期は経済が拡大し、停滞もしくは減少期には文化が花開く。歴史から考える、人口減少の本質とは? Photo:hanabunta-Fotolia.com

「歴史人口学」という学問を知っていますか。地域に残る人口史料を分析し、人口の推移や庶民の生活を明らかにする学問です。私は近世を中心に、明治時代以前の人々の膨大な史料を読み込み、人口の増減によって社会がどう変化するかをつぶさに観察してきました。

 その立場から言いたいのは、人口が減ること自体は社会の近代化における自然な流れであって、心配する必要はないということです。

 むしろ私は、人口減少は日本にとっていいことだとすら思います。大事なのは無理に人口を増やし続けるより、人口減少によって起きる事象の意味を考え、社会の変化に合わせた対策を実行していくことです。詳しく説明していきましょう。

 まず、人口減少は日本だけでなく先進国全体で起きています。人口動態を予測するには、合計特殊出生率(TFR)といって、1人の女性が生涯で何人の子どもを産むかという指標を参考にします。

はやみ・あきら
1929年生まれ。歴史人口学者。1950年慶應義塾大学経済学部卒業。1953年同大学同学部副手に就任。助教授を経て、1967年教授。経済学部長、大学院経済学研究科委員長などを歴任し、1992年名誉教授。麗澤大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授などを務める。経済学博士、日本学士院会員。2009年に文化勲章受章。『近世濃尾地方の人口・経済・社会』(創文社)、『歴史人口学で見た日本』(文春新書)など著書多数。

 これまでの研究で、TFRが2.07人を切ると、20~30年以内にその地域の人口が減るということが分かっています。長期的に見れば、どの社会においても近代化が進むにつれて、出生率と死亡率がそれぞれ低くなっていきます。

 つまりたくさん産まれ、死んでいく社会から、医療の発達やインフラ整備、栄養状態の向上などによって人間が死なず、産まれる数も少なくなっていく。そのような社会への移行を、「人口転換」と呼んでいます。

 世界のTFRの推移を見てみましょう。先進地域全体では、1990年代に早くもTFRは2人を切っています。

 現在の世界全域のTFRは2.50 人となっていますが、これはアフリカをはじめとする発展途上地域が押し上げているのであって、先進地域に限って見ると1.68人にまで低下している。欧州の主要国ではTFRが軒並み下がっていて、今後10年以内に全地域において人口減少が進むでしょう。